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赤紫蘇

旬のもの 2024.06.18

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こんにちは、料理人の庄本彩美です。今日は「赤紫蘇」についてのお話です。

夏の保存食の季節が来た。「らっきょう」「実山椒」「新しょうが」「梅」と、旬の食材が次々と押し寄せてくる。
夏の保存食作りの終わりが見えるころ、「赤紫蘇」の季節が来る。深い紫色が美しく、爽やかな香りのする日本のハーブ。赤紫蘇が出まわりだすと、私はまず梅干し用に塩漬けをする。その次に夏の暑さをスッキリさせてくれる紫蘇ジュース作り。

そして、祇園祭の終わる7月末ごろ、私は赤紫蘇の産地である京都の大原に「生しば漬け」作りの手伝いにいく。
大原は京都市内中心部より北に位置し、周りを山に囲まれた小さな盆地。その地形から外からの花粉が舞い込みにくく赤紫蘇が原種に近いそうだ。色・香り・味ともに、世界最高峰といわれる。

それを使う漬物「生しば漬け」は、千枚漬け、すぐきと並ぶ京都三大伝統漬物のひとつ。茄子と赤紫蘇を、調味料に頼らず塩のみで漬け込み熟成発酵させた、昔ながらの乳酸菌発酵の漬物だ。
毎年、市内中心部よりも少し涼しい緑に囲まれた大原で、自然を感じながら生しば漬け作りは行われる。150kgほどの野菜を、大人数でテキパキと仕込んでいく作業はとても気持ちがいい。

去年の生しば漬け作りの後、残った赤紫蘇を分けてもらった。
家に戻った私は、初めて家での「生しば漬け作り」に挑戦することにした。
材料は茄子と赤紫蘇のほかに、きゅうり、茗荷。色々足して、食感にバリエーションをつけてみる。茄子と赤紫蘇が反応してあの赤紫色になるので、茄子を多めに用意するのがおすすめだ。
野菜は思っているよりも太めに切るのがポイントだと教えてもらった。重石で漬け込むとグッと小さくなるため、ざっくり切っていく。

材料を切ったら、大きめのボウルにどさっと野菜を入れて塩揉みする。ある程度野菜から水分が出たら、赤紫蘇も入れて揉み込んでいく。
樽にビニール袋を敷き入れ、その中に混ぜ込んだ食材をぎゅうぎゅうに詰める。空気を抜いて袋を縛り、重石を積んだら一旦作業は終了。大原の時の作業と比べると、一瞬で終わってしまった。

大原では樽いっぱいに詰め込んで重石をすると、仕込んだそばから水があがって溢れてくる。100ℓの樽2つに仕込んだ生しば漬けが、1日ほどで1つの樽にまとめられるくらい水が出るのだ。夏野菜の水分はすごい。家では水が溢れ出ると困るので、小さな樽の半分くらいの量で作っておいた。

翌日、樽の中を覗いてみると水が溜まっている。しば漬けといえば、鮮やかな赤紫色だが、まだあまり色は出ていないようだ。発酵の匂いがほのかにする。匂いにつられて虫が来そうだったので、ビニールから溢れた水をすくいとり、樽の内側の汚れを拭き取って、重石をし直しておいた。

毎日観察していると、徐々に水分も落ち着いてきた。数日経つと、全体が赤紫色になりしば漬けらしくなってきた。
その後もたまに樽の様子を気にかけながら、出来上がりを待った。1ヶ月経ったころ野菜が白っぽくなり色が抜けてしまった。急いでしば漬け仲間に相談すると「徐々にまた色は戻っていくから焦らなくて大丈夫」とのこと。ゆっくり待つことおおよそ2ヶ月、無事に綺麗な赤紫色の生しば漬けが出来上がった。

食べてみると、乳酸発酵の優しい酸味がフワッと口の中に広がる。市販の調味料で味付けしたものと比べると、独特の乳酸菌の味に好みが分かれそうだ。醤油を少し加えたり、生姜やごまと和えてアレンジしたりすると食べやすいだろう。私はじっくり時間と手間をかけて出来上がった生しば漬けが、大変愛おしかった。
「ここ最近は勢いに乗って、保存食づくりをこなしていく数ヶ月だったけど、ゆっくり関わるこういう時間も大切だな。」と静かに賑わう樽の中の様子を見ながら思ったのだった。

私は「保存食」といえば、基本的には作ったら置きっぱなしというイメージがあった。しかし、樽の中では、何かが絶えず動いているようで、毎日手に取り観察していると、目には見えないながらも、変化を感じとるものなのだということに気がついた。
樽を覗き込みながら、必要な分だけ手をかけ、その時を待つ。発酵という作用の中に、自分もゆっくり溶け込んでいくような、生しば漬け作りだった。

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庄本彩美

料理家・「円卓」主宰
山口県出身、京都府在住。好きな季節は初夏。自分が生まれた季節なので。看護師の経験を経て、料理への関心を深める。京都で「料理から季節を感じて暮らす」をコンセプトに、お弁当作成やケータリング、味噌作りなど手しごとの会を行う。野菜の力を引き出すような料理を心がけています。

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