こんにちは。俳人の森乃おとです。
残暑の厳しい中でも、ヒャクニチソウ(百日草)が美しい色の花を咲かせています。初夏から咲き続け、秋の彼岸の頃には花の色がひときわ鮮やかになり、存在感を放ちます。開花期間が長いため、11月上旬まで私たちを楽しませてくれるでしょう。
学名の「ジニア」は早世した弟子の名
ヒャクニチソウはキク科ヒャクニソウ属の一年草で、原産地はダリア(キク科ダリア属)やコスモス(キク科コスモス属)と同じくメキシコ高原です。宗主国のスペインを経由して18世紀にヨーロッパにもたらされました。ちなみに、同じキク科のヒマワリも、初期にはスペインの植民地だったアメリカ西海岸が原産地です。
学名はZinnia elegans(ジニア・エレガンス)。属名の「Zinnia」はドイツ人植物学者のヨハン・ゴットフリート・ジン(Johann Gottfried Xinn/1727 – 1759)にちなみ、種小名の「elegans」は「優美な」の意です。命名者は「植物分類学の父」と呼ばれるスウェーデンの学者カール・フォン・リンネ。ジンの師に当たり、早世した弟子を悼んで献名しました。
現在、園芸店では学名の「ジニア」の名で流通することが多くなっています。
またの名を「長久草」「浦島草」
ヒャクニチソウが日本に渡来したのは文久2(1862)年以前で、米国からといわれています。和名の由来は、花期が5 ~11月と長い上、花が丈夫で長持ちするためです。もちろん1つの花が100日も持つはずはなく、次々に新しい花に咲き代わるのですが、花弁が厚く、茎や葉が粗い毛に包まれた姿は頼もしく、もしかすると100日ぐらい持つかと思われたのかもしれません。渡来時には「チョウキュウソウ(長久草)」「ウラシマソウ(浦島草)」という別名もつきました。
品種改良がすすみ、花色も姿も豊富
ヒャクニチソウは各国で品種改良が重ねられたため、現在ではとても多様な姿の園芸品種が存在しています。草丈は10~90㎝と幅があり、花径も小さいものでは3㎝から、大輪種では15㎝にも達します。
花色は青以外のすべての色がそろい、花の形も、一重咲き、八重咲き、さらに八重咲きの発展形のカクタス咲き、ポンポン咲きとさまざま。
キク科の花の特徴として、1つの花のように見える頭花は、多くの合弁花の集まりです。1枚の花弁のように見えるのは、本来は5枚の花弁が接合した舌状花で、原種に近い一重咲きでもその数は十数個。八重咲きではその数は数百個に達します。また、舌状花の内側には多くの筒状花が集まっています。
ニチニチソウ(日日草)と混同されがち
ヒャクニチソウと同様、花期が長いことから名付けられた花に「ニチニチソウ」(日日草)があり、混同されがちです。こちらはマダガスカル原産のキョウチクトウ科ニチニチソウ属の一年草です。
花の色は紫、赤、白などで、一見似た雰囲気もありますが、決定的な違いは花弁の数。ヒャクニチソウは最低でも10数個の舌状花が花弁のように取り巻いていますが、ニチニチソウは径3~4㎝の幅が広い5弁花です。また、ニチニチソウのそれぞれの花は、1日から3日でしぼんでしまいます。近年は、ヒャクニチソウよりニチニチソウの方を多く見かけますが、有毒植物ですのでご注意ください。
ヒャクニチソウの花言葉は「遠い友を思う」「いつまでも変わらぬ心」「幸福」など。
花期が長く花持ちがよいことから、故人の冥福を祈る供花、あるいはお盆に供える盆花として重宝されたことが「遠い友を思う」「いつまでも変わらぬ心」の花言葉の由来です。
また、南米のブラジルでは、ヒャクニチソウは「幸福を招く花」「魔除けの花」。リオデジャネイロのカーニバルなど祭典には欠かせない花として飾られます。
俳人の櫂未知子氏の句には、現世での「百日」のはじまりへと決意とともに、どこか常世へと続くような不思議な透明感と幸福感があるようにも思えます。
今年の秋のお彼岸は9月19日から25日。なつかしい人たちに色鮮やかなヒャクニチソウを捧げ、変わらぬ思いを語りかけてはいかがでしょうか。
ヒャクニチソウ(百日草)
学名Zinnia elegans
英名Common zinia、Youth-and-old-age
キク科ヒャクニチソウ属の一年草で、メキシコ高原原産。花期は5~11月。花色は赤、朱、ピンク、紫、白、黄など。これまで仏花のイメージが強かったが、現在は学名の「ジニア」で呼ばれることが多くなり、ガーデニングや寄せ植え、切り花などでも人気。
森乃おと
俳人
広島県福山市出身。野にある草花や歳時記をこよなく愛好する。好きな季節は、緑が育まれる青い梅雨。そして豊かに結実する秋。著書に『草の辞典』『七十二候のゆうるり歳時記手帖』。『絶滅生物図誌』では文章を担当。2020年3月に『たんぽぽの秘密』を刊行。(すべて雷鳥社刊)
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