こんにちは。巫女ライターの紺野うみです。
秋も深まり葉も落ちて、収穫の終わった柿の木にポツンと残されたひとつの柿の実を、皆さんはどこかで見かけたことがあるでしょうか?
一見すると「収穫のし忘れなのかな?」と思いがちかもしれませんが、これは「木守り」と呼ばれる風習のひとつ。読み方は「きもり」「きまもり」「こもり」などとさまざまです。
場合によっては、ひとつだけでなく数個を木に残しておくこともあるようですが、「木守り」は文字通り「木の番人」として、柿の木にあえて残された実のこと。
柿以外に、みかんやその他の果実でも、同じように実が残されることもあります。
そしてそこには、先人たちから受け継がれたならわしとしていくつかの意味が込められているのですが、実はその内容こそが、肌寒いこの季節、心にじんわりとあたたかいものを残してくれるのです。
一つめは「自然の恵みへの感謝」。
私たちが口にしている美味しい食べ物の数々は、科学や技術の発展した今なお、ほとんどが自然からの恩恵を受けていただくことができているものばかり。
「〇〇が美味しい季節になったね」と言いたくなるような「旬」の食材が食卓に並ぶと、心も体もうれしくなるものです。
特に果物は、やっぱり季節ごとの味わいが、生活に彩りを与えてくれますよね。
そんな樹木に対する感謝の気持ちとして、「今年も美味しい果実をありがとう」と、あえて実を残すという形で感謝の想いを届けているわけです。
二つめは「他の生き物への思いやり」。
私たち人間以外にも、生きとし生けるものたちへの配慮の心が現れているのです。
木に残された美味しい果実は、いずれ鳥などの小さな動物たちが食べに来て、これからやってくる厳しい冬を乗り越えるための大切な糧となります。
この地球に生きているのは、もちろん人間ばかりではありません。
独占せずに分け与えながら、お互いに共存していくべきだという、人間だからこそ考えられる思いやりの心が、この文化の中に息づいているのですね。
そして三つめは「翌年の豊作への祈り」。
日本では古来、あらゆる自然の姿の中に畏敬の念を抱き、それらを「八百万の神」として大切に考えてきました。
例えば、神社にあるような「御神木」からも分かるように、樹木のひとつひとつにだって尊い霊魂が宿るものと考えてきたわけです。
自然から授かった恩恵に対して、私たち日本人は感謝の想いと共に、神々へ継続した豊かな恵みを祈ってきました。
「木守り」の文化は、その「祈り」のひとつの形として、「来年もたくさんの実がなりますように」と受け継がれてきたのだとも言えるでしょう。
日本の里山で、静かに、そっと受け継がれてきた「木守り」の精神。
それは、自然との共存共栄から少しずつ道を外れ、自分勝手な暮らしを続けるために人間が繰り返している自然破壊と隣り合わせの現代社会に、大切な生き方や心の在り方を問いかけてくれているような気がしてなりません。
「物」が豊かなこの時代、私たちが先人の遺した文化から学ぶことができるのは「心」の豊かさなのではないでしょうか。
人として生きる上で失くしたくない心の豊かさは、当たり前のように思えるようなさまざまな物事への「感謝」や「謹み」、そしてその恩に報いる行動を積み重ねることで育っていくことでしょう。
自然との共生、他の存在をも思いやる、慈悲の心。
日本人としての誇りを持って、その精神を、忘れずに受け継いでいきたいものですね。
紺野うみ
巫女ライター・神職見習い
東京出身、東京在住。好きな季節は、春。生き物たちが元気に動き出す、希望の季節。好きなことは、ものを書くこと、神社めぐり、自然散策。専門分野は神社・神道・生き方・心・自己分析に関する執筆活動。平日はライター、休日は巫女として神社で奉職中。
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