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ラッキョウ

旬のもの 2024.11.04

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こんにちは。俳人の森乃おとです。

小気味のいい噛み音と絶妙な辛さが特徴のラッキョウ(辣韭)。日本の暮らしに古くから根付き、現代ではカレーライスの付け合わせとしてもよく知られています。花の見頃は、9月から10月下旬。淡紫色の小花が半球状に集まり、とても可憐で美しい姿をしています。

平安時代以前に中国から渡来

ラッキョウはヒガンバナ科ネギ属の多年草で、中国のヒマラヤ地方が原産。中国では地下の白い鱗茎が薤白(がいはく)という生薬名で呼ばれ、強力な抗菌作用と、新陳代謝を活発にして血流を良くする効果があるされてきました。ラッキョウ(辣韭)という名前は、ニラ(韭)に外見が似ていて辛味が強いことから「辛辣な韭」という意味でついたと考えられています。

日本には平安時代以前に薬用として渡来。平安時代に編纂された薬物辞典『和名本草』には、「於保美良(オオミラ=オオニラ)」という古名が紹介されています。そして江戸時代には広く食用とされていたことが、近世の百科事典を代表する『和漢三才図会(わかんさんさいずえ)』に記されています。

江戸時代の栽培は福井県三国町や鳥取砂丘などの砂地で行われ、明治以降、鹿児島・宮崎両県にも広がりました。

らつきようの 花どきといふ 因幡入り――飴山實(あめやま・みのる/1926~2000)

ラッキョウの草丈は30~50㎝。葉は幅1~3mm。葉の断面は5角形。秋に高さ20~40㎝の花茎を伸ばし、その先端に半球形の小さな花を集めて咲かせます。
花は3弁ですが、同数の苞(ほう)があるため6弁花に見えます。花弁は長さ4~6mm、幅3~4mmほど。花茎につながる花柄は長さ1~2㎝。紫色の線香花火のような愛らしい姿です。

ラッキョウは鳥取市の市の花に指定され、花期に入りラッキョウの花が砂丘を紫色に覆い尽くす光景は、とても壮観です。俳人で化学者の飴山實の作品は、その花盛りに因幡の国(鳥取県)を訪れた喜びを詠っています。

ラッキョウは「エシャレット」。「エシャロット」は小型タマネギ

ラッキョウの学名はラテン語で「Allium chinense(アリウム・キネンセ)」。属名の「Allium」は「ニンニク」、種小名の 「chinense」は「中国の」の意。ネギ属はかつてはユリ科、ついでキジカクシ科に編入されていましたが、遺伝子解読の進展を受けて、分類が改められました。同属にはニンニク、タマネギ、長ネギ、ニラなど、ひと癖ありそうな野菜や香辛料が並んでいます。いずれも硫化アリルという薬用成分を生成し、特有の辛味と臭いを持つことが特徴です。

ラッキョウは、「エシャレット」という名前で売られることもあります。エシャレットは2~5月にラッキョウに土寄せし、軟白栽培して葉も食べられるようにしたもので、1955年に東京青果市場で売り出されました。その際、「根ラッキョウ」という名前ではインパクトがないと考えた一人の青果商が、西洋料理の付け合わせに使われていた「エシャロット」の名を借りて命名したそうです。おしゃれな響きのため人気が出て、根ラッキョウ=エシャロットのイメージは定着しました。

本来の「エシャロット」はタマネギの小型変種で、やがて日本に輸入されるようになって以降、根ラッキョウは「エシャレット」と改名。けれど両者の混同・混乱は今も続いています。

花言葉は「慎ましいあなた」

ラッキョウの花言葉は「慎ましいあなた」。鱗茎はタマネギほど大きくなく、葉は長ネギより細く、花はタマネギの球形の「ネギ坊主」よりよほど控えめ。食材としてもメインディッシュにはならず、付け合わせとして引き立て役に徹します。

さて、明治の文豪・夏目漱石(1867~1916)が1905年に発表した短編小説『薤露行(かいろこう)』では、ラッキョウは人生の儚さを示す存在として扱われています。
アーサー王伝説に基づき、円卓の騎士ランスロットと3人の女性の運命を描いた作品ですが、「薤露(かいろ)」とは、ラッキョウの葉についた露のこと。ラッキョウの葉は細いので、露を長く留めておくことはできません。イギリスのアーサー王伝説とラッキョウとは、少年時代から漢詩に親しんだ夏目漱石らしい、東西文化の美しき取り合わせとなっています。

ちなみに、俳句の世界では、食材のラッキョウの季語は夏。現代俳人の大石悦子(おおいし・えつこ/1938~2023))氏には「らつきようの 白きひかりを 漬けにけり」という作品があります。何気ない日常に添えられた「らっきょう」の輝きが描かれ、その幸せな情景に胸の奥が温まる思いがいたします。

ラッキョウ(辣韭)

学名 Allium chinense
英名 Rakkyo
ヒガンバナ科ネギ属の常緑性多年草。中国ヒマラヤ地方原産。平安時代以前に薬用として移入され、江戸時代から広く食用に。草丈は30~50㎝。食用となる鱗茎の旬は6月、塩漬けや甘酢漬けにして食べる。花期は9~10月下旬。花茎の先端に淡紫色の花を半球状に咲かせる。

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森乃おと

俳人
広島県福山市出身。野にある草花や歳時記をこよなく愛好する。好きな季節は、緑が育まれる青い梅雨。そして豊かに結実する秋。著書に『草の辞典』『七十二候のゆうるり歳時記手帖』。『絶滅生物図誌』では文章を担当。2020年3月に『たんぽぽの秘密』を刊行。(すべて雷鳥社刊)

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