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ヒシクイ

旬のもの 2024.11.25

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こんにちは。科学ジャーナリストの柴田佳秀です。
私は、秋が大好きです。なぜならば、越冬の為にぞくぞくと鳥たちが日本へやってくるから。季節的には寂しさを感じる時期ですが、鳥の世界ではこれからが賑やかなバードウォッチングのベストシーズンです。

さて、そんなワクワク感が止まらない秋ですが、11月になると無性に行きたくなるところがあります。それは日本屈指の探鳥地である宮城県北部の伊豆沼周辺です。ここは渡り鳥であるガン類の日本最大の越冬地で、11月は群れのほとんどが到着完了しており、観察をするには絶好のタイミング。今すぐにでも行きたくて仕方がありません。

オオヒシクイとマガン 写真提供:柴田佳秀

今回紹介するヒシクイも、伊豆沼周辺で見られるガンの仲間。マガン、コクガンと共に国の天然記念物に指定されています。日本に定期的に渡来するガンの中でヒシクイは最大種で、全長が85~95cmもあります。大きさに幅があるのは、日本に来るヒシクイには、オオヒシクイとヒシクイの2つの亜種がいるから。

ヒシクイ 写真提供:池内俊雄

亜種オオヒシクイは、サイズ感がコハクチョウとあまり変わらないくらいの大型の鳥で、亜種ヒシクイはひとまわり小型です。どちらも体全体が褐色で、嘴の先と脚のオレンジ色以外にあまり目立った色はありません。じつに地味な鳥ですが、私はなんだか野武士のような雰囲気を感じ、この魅力にやられてしまうのです。

ヒシクイ 写真提供:池内俊雄

ヒシを食べる鳥だからヒシクイ。その名の通り、水草のヒシの実を食べることからの命名です。ヒシの実って、忍者の武器になるくらい鋭い棘があるので、そんなの食べて大丈夫?と心配になってしまいます。でも、嘴でコロコロを転がして棘を折ってから飲み込んでいるので問題ないのでしょう。

ヒシクイ 写真提供:池内俊雄

ヒシの実が大好物なヒシクイですが、いつもそればかりを食べているわけではありません。さまざまな植物の葉や根を常食としています。なかでも亜種オオヒシクイは、水草のマコモの根が大好物で、沼の岸辺で顔を泥だらけにして食べています。昔の人は、そんな習性をよく知っていて、“ぬまたろう”なんて名前で呼んでいた地方もあるそうです。

ヒシクイ 写真提供:池内俊雄

日本のヒシクイの越冬地は、この伊豆沼周辺の他、秋田県八郎潟や新潟県福島潟、茨城県の霞ヶ浦、滋賀県の琵琶湖などが知られていて、毎年、約2万羽が越冬すると見積もられています。マガンは越冬数が約20万羽ですから、ヒシクイはかなり少ないですね。

オオヒシクイ 写真提供:柴田佳秀

このヒシクイは、私にとって非常に思い入れがある鳥なんです。というのも、1991年にまだソ連時代のカムチャツカ半島へ出かけてヒシクイを捕獲し、首輪標識を取りつける調査に参加したから。その当時、日本に来るヒシクイがどこで繁殖し、どのルートを通って日本に渡来するかわかっておらず、それを明らかにするための調査でした。

ヒシクイ 写真提供:池内俊雄

その結果、亜種オオヒシクイはカムチャツカ半島で繁殖し、北海道のサロベツ原野を中継地とし、宮城県北部や新潟県の福島潟、琵琶湖などで越冬していることが判明。渡り鳥を守るためには、その鳥が利用する場所を地球規模で知らなければ、効率よく対策をすることができません。そのためには地道な調査研究が不可欠なのです。

野武士のようなオオヒシクイ 写真提供:柴田佳秀

じつはこの調査は、私にとって初めての海外でした。しかも、日本人が入ったことがない場所だったのです。そして、現地では様々な貴重な経験を積むことができ、それが今につながっていることをヒシクイを見る度に思い出します。さあ、今シーズンもヒシクイが待っています。防寒対策をしっかりして出かけることにしましょう。

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柴田佳秀

科学ジャーナリスト・サイエンスライター
東京都出身、千葉県在住。元テレビ自然番組ディレクター。
野鳥観察は小学生からで大学では昆虫学を専攻。鳥類が得意だが生きものならばジャンルは問わない。
冬鳥が続々とやってくる秋が好き。日本鳥学会会員。

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