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キバナコスモス

旬のもの 2024.11.28

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こんにちは。俳人の森乃おとです。

キバナコスモス(黄花コスモス)が、晩秋に入っても鮮やかな夕焼けのような黄橙色の花を咲かせ続けています。開花期が長く、夏から開花する花ですが、秋の澄んだ空気の中で咲くキバナコスモスは、ひときわ美しく胸に沁みる思いがします。

メキシコ高原に咲く硫黄色のコスモス

キバナコスモスはキク科コスモス属の一年草で、原産地はメキシコ高原。ピンクや白の花を咲かせるコスモスより標高の低いところに自生し、コスモスとは住み分けて分布しています。
学名はCosmos sulphureus(コスモス・スルフレウス)。種小名の「sulphureus 」は、ラテン語で「硫黄(いおう)色の」「黄色い」を意味し、特徴的な花の色を表します。

ちなみに「Cosmos」という属名は、ギリシャ語の「Kosmos」に由来し、「宇宙の美と調和」を意味します。

コスモス属の総称として、日本で単に「コスモス」と呼ばれ、親しまれているのは、Cosmos Bipinnatus(コスモス・ビピナタス)。種小名の「Bipinnatus」は「2回羽状複葉の」という意味で、複雑に切れ込んだ葉の姿を表しています。

1789年に宗主国だったスペインのマドリード植物園にキバナコスモスとともに送られ、著名な植物学者・博物学者のアントニオ・ホセ・カヴァニウスによって、それぞれ学名がつけられました。カヴァニウスはダリアの命名者としても知られています。
属名がコスモスとされたのは、端正な花の姿によほど強い印象を受けたからでしょう。

繁殖力が旺盛で、各地で野生化も

コスモスは草丈2~3mにもなりますが、キバナコスモスの草丈はそれより低く、30㎝~1mほど。花径も4~5㎝とコスモスより小ぶりです。
何よりも異なるのは花の色で、キバナコスモスは名前通り黄色あるいはオレンジ色。近年は、「ディアボロ(悪魔)」「サンセット(夕焼け)」の名を持つ見事な紅色の改良品種も作られています。

キバナコスモスの花期は長く、7~11月。原産地ではコスモスより標高が低いところで咲くため、暑さに強く繁殖力が旺盛なので、コスモスと一緒に植えると最後はキバナコスモスだけになってしまうこともあるそうです。一部は逸出して各地で野生化しています。

キク科ですので、花は花弁のような形の舌状花が輪になり、中心にある筒状花の集まりを取り巻いて、頭状花という1つの花のように見える構造をつくっています。舌状花の数は通常は8枚ですので、あたかも8弁花のように見えます。

コスモスに遅れて、大正年間に渡来

コスモスがイタリア人美術教師ラグーザによって日本に紹介されたのは1879(明治12)年ですが、キバナコスモスはそれより遅れ、大正年間に観賞用に移入されました。日本で現在栽培されている、同じコスモス属のチョコレートコスモスも、やはり大正年間に渡来しました。
チョコレートコスモスは学名Cosmos atrosanguineus(コスモス・アトロサンギネウス)」。「atrosanguineus」は「暗い血の色」という合成語で、その名の通り、花色は印象的な黒紫色をしています。また、ほのかにチョコレートの香りがします。

キバナコスモスとコスモスは、同属であっても互いに交配できません。しかし、チョコレートコスモスとキバナコスモスは交配でき、交配種には「ストロベリーチョコレート」というなんとも可愛らしい名前がつけられています。

豹紋蝶(ひょうもんちょう) 黄のコスモスに 群れ飛べり――松崎鉄之介(まつざき・てつのすけ/ 1918~2014)

キバナコスモスの花言葉は「野生的な美しさ」「幼い恋心」。俳人の松崎鉄之介の作品は、群舞するヒョウモンチョウ(豹紋蝶)とキバナコスモスを詠んだもの。ヒョウモンチョウは、オレンジ色の羽に黒い紋をちりばめた、ネコ科のヒョウを連想させる美しい蝶です。
手練れの俳人によって、まるでキバナコスモスがヒョウに化身したかのような、鮮やかで強烈な野生美が描き出されています。

ところで、キバナコスモスを詠んだ俳句はあまり多くはありません。はかなく夢のように咲くコスモスの威光が強すぎるのでしょうか。
夕日に染まった茜雲のように輝くキバナコスモスは、「幼い恋心」という花言葉のように、誰しもの心に秘められた、あどけなくも美しい純烈な感情を呼び起こします。そして過ぎ去ったものへの郷愁と同時に、新しい明日を生きる勇気が生まれてくるような思いがするのです。

キバナコスモス(黄花コスモス)

学名 Cosmos sulphureus
英名 Sulphur Cosmos, Orange cosmos
キク科コスモス属の一年草。コスモスやチョコレートコスモスと同じくメキシコ高原原産。草丈は30㎝~1m。花期は7月~11月。花色は黄色あるいはオレンジ色。舌状花の数は通常8枚。葉は2回羽状複葉。日本には観賞用として大正時代に渡来。

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森乃おと

俳人
広島県福山市出身。野にある草花や歳時記をこよなく愛好する。好きな季節は、緑が育まれる青い梅雨。そして豊かに結実する秋。著書に『草の辞典』『七十二候のゆうるり歳時記手帖』。『絶滅生物図誌』では文章を担当。2020年3月に『たんぽぽの秘密』を刊行。(すべて雷鳥社刊)

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