こんにちは。俳人の森乃おとです。
9月に入り、いよいよ季節は秋となりました。さて、秋の花といえばコスモスの名をあげる方も多いのではないでしょうか。名前からしても、コスモスは外国から渡来した植物です。それなのにコスモスは、すっかり日本の花として定着しています。澄んだ青空の下、風に揺れる優しい姿には、どこか郷愁を誘われてなりません。
名前は「宇宙」という意味
コスモス(学名Cosmos)はキク科コスモス属の植物の総称で、メキシコの高原地帯が原産地です。その整った花の形に魅せられたスペイン人の聖職者が、宇宙の秩序や調和を表わすギリシャ語の「kosmos」から、コスモスと名付けました。
この言葉には、女性の美や飾りという意味もあり、美容や化粧を指すコスメティックも、語源は同じだそうです。
コスモスは「故郷の花」
日本に渡来した時期は、はっきりとはわかっていません。
有名なのは、明治9年(1876年)に工部美術学校の教師として政府に招かれたイタリア人彫刻家ラグーザが、植木屋の娘で絵の弟子の清原多代を喜ばせるために持ち込んだという説です。多代はその後、ラグーザと結婚してシチリアに渡り、日本初の女性西洋画家となります。「ラグーザお玉」の名で知られる人物です。
明治時代の末には、人の背丈よりも高いコスモスの大群落が、各地で見られるようになりました。やせた土地でも育つため、川原や道路沿い、休耕地、駅の周辺などに、「景観植物」として盛んに植えられたからです。
明治42年(1909年)に文部省が、全国の小学校にコスモスの種子を栽培法とともに配布したという話もあります。
そのため、コスモスは多くの日本人にとって、都会的な西洋の花というよりも故郷を思い出させる花となったのです。
花の色は赤、ピンク、白
普通に見られるコスモスは、学名Cosmos bipinnatusコスモス・ビピンナツスという種類。「葉が2回切れ込んだコスモス」という意味です。
花期は9月から11月。日が短くなると咲く「短日植物」の代表格で、北海道から咲きはじめ、本州に降りてきます。
茎の高さは1~2m。ちょうど台風のシーズンなので、風でなぎ倒されることも多いのですが、地面に着いた部分から根が出て、そこから再び茎を直立させるという強さも持っています。最近は、6月に咲く早生種もあり、背丈も低くなる傾向にあります。
ピンクの花の種子を撒くと、翌年に赤、ピンク、白の花が咲きます。キク科の植物なので、1つの花は舌状や筒状の小花(しょうか)の集まりです。花びらのように見える舌状花は通常8個。真ん中の黄色い部分が筒状花の集合で、ここで種子を作ります。
ちなみにキバナコスモスやチョコレートコスモスは、同属ですが種は違います。
「コスモス」は正式な和名
コスモスには、「オオハルシャギク」(大波斯菊)という和名が提案されたこともあります。すでに渡来していたハルシャギク(波斯菊)とよく似ているからです。しかし、日本の植物分類学の父・牧野富太郎は「長過ぎる」と批判。俳句の世界でよく使われていた「アキザクラ」(秋桜)を一時和名として採用しました。秋に咲くピンク色の花が桜を思わせるためです。
その彼も、戦後に編纂した図鑑では和名を「コスモス」に改め、「アキザクラ」を別名に格下げしています。
これに対して、与謝野晶子らの歌人や夏目漱石らの作家は、名前の響きが気に入ったのでしょうか、最初から「コスモス」の名を使っています。
花言葉は「乙女の真心」「調和」「謙虚」
コスモス全般の花言葉は「乙女の真心」「調和」「謙虚」。繊細な花の姿にちなんでいます。さらに花の色ごとに花言葉があり、赤い花は「愛情」「調和」、ピンクは「純潔」、白は「優美」です。
コスモス
学名Cosmos bipinnatus
英名Mexican aster,garden cosmos
キク科コスモス属の一年草で、メキシコ原産の帰化植物。別名にアキザクラ(秋桜)、オオハルハシャギク(大波斯菊・大春車菊)。「コスモス」といえば、一般的にこの種を指す。草丈は1~2m。花期は9月~11月。花色は赤・ピンク・白など。
森乃おと
俳人
広島県福山市出身。野にある草花や歳時記をこよなく愛好する。好きな季節は、緑が育まれる青い梅雨。そして豊かに結実する秋。著書に『草の辞典』『七十二候のゆうるり歳時記手帖』。『絶滅生物図誌』では文章を担当。2020年3月に『たんぽぽの秘密』を刊行。(すべて雷鳥社刊)
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