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ミヤマガラス

旬のもの 2025.01.23

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こんにちは。科学ジャーナリストの柴田佳秀です。

「旅がらす」という言葉があります。映画「男はつらいよ」の寅さんみたいな、足の向くまま、気の向くまま、住む場所を定めずに各地を転々としながら暮らす人のことをそう呼ぶそうです。そういえば、35年くらい前には「1円玉の旅がらす」なんて歌もありましたね。覚えていらっしゃいますか?

では、実際のカラスはどうでしょう。私たちの身近にいるハシブトガラスやハシボソガラスは、寝る場所や昼間活動する場所はだいたい決まっていて、あっちこっち点々と移動しながら暮らしているわけではありません。ですから、「旅がらす」とはちょっと違います。ところが、今回紹介するミヤマガラスは、秋になると日本に飛んで来る渡り鳥で、正真正銘の「旅がらす」。ちょうど今頃が観察に適した冬のカラスです。

さて、そのミヤマガラスは全長47cmで、ハシボソガラスと同じくらいの鳥です。カラスなので全身がまっ黒ですが、嘴の付け根だけが白っぽく、とても目立ちます。多くのカラス類は、この部分に羽毛が被さっていて黒いのですが、ミヤマガラスは大人になると、なぜかその羽毛が抜けてむき出しになり、白く目立つようになるんです。

世界的には、ヨーロッパから東アジアにかけて広く分布するカラスで、東の個体群と西の個体群の2亜種が知られています。その東の亜種の一部が、日本で越冬しており、やって来るのはだいたい10月中旬ごろ。翌年の3月くらいには、繁殖地のロシアのアムール川流域や中国東北部へ渡っていきます。

名前のミヤマとは、普通は山深いという意味です。ところが、このミヤマガラスがいるのは、平地にある田んぼなどの農耕地で、山奥にいることはまずありません。それなのになぜ、この名前になったのかは、明確なことはわかっていないのですが、一説では、ミヤマという言葉には遠く離れたという意味もあるらしく、遠くから渡ってくるカラスという意味ではないかというのです。

私がこの鳥に初めて出会ったのは、今から35年くらい前の九州でした。ナベヅルやマナヅルの越冬地として有名な鹿児島県出水平野で、数千羽のミヤマガラスが竜巻のように渦を巻いて飛び、その光景は今でも目に焼き付いています。カラスというと、ゴミを漁るイメージがありますが、このカラスは農耕地専門で、ゴミを食べることはありません。このときもツルと一緒になって、冬の水のない田んぼで落ち籾やタニシを見つけて食べていました。

じつは、日本で越冬するミヤマガラスは、1970年代までは九州と山口県のみでしか見られない地域限定のカラスでした。ところが、1980年代になると中国地方や四国に現れるようになり、1990年代にはさらに分布が拡大し西日本各地や北陸地方でも記録されるようになったのです。また、ちょうど同じ頃、北海道や東北地方でもミヤマガラスの群れが姿を見せ、2000年代になると関東や東海地方にも出現。現在は全都道府県で記録されるまでになったのです。

いったいどうしてミヤマガラスが、全国的に見られるようになったのか、その理由はよくわかっていません。考えられるのは、繁殖成績が良くなってミヤマガラスが増えたこと、それと彼らの採食環境である冬の水田の環境変化です。コンバインによる収穫は落ち籾が多くなる事がわかっており、機械化が彼らの食糧を増やした可能性が指摘されています。

2021年1月4日は、私にとっては忘れられない日です。何故ならば、千葉県の自宅でついにミヤマガラスの群れを見たから。夕暮れ時、カラスの大きな群れが飛んできて、送電線にとまったので双眼鏡で確認すると、まぎれもないミヤマガラスだったのです。九州までわざわざ見に行ったカラスが、35年後の今、ついに自宅から見るようになるとは夢にも思っていませんでした。鳥を長く見ていると、思わぬ事が起こることがあり、楽しみはつきません。

自宅からみたミヤマガラスの群れ

写真提供:柴田佳秀

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柴田佳秀

科学ジャーナリスト・サイエンスライター
東京都出身、千葉県在住。元テレビ自然番組ディレクター。
野鳥観察は小学生からで大学では昆虫学を専攻。鳥類が得意だが生きものならばジャンルは問わない。
冬鳥が続々とやってくる秋が好き。日本鳥学会会員。

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