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かきもち

旬のもの 2025.01.31

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一年で最も寒さが厳しい季節を迎えました。

二十四節気のひとつ「大寒」のころは、寒冷な気候が食べものの保存や加工に最適な環境をもたらすため、古くからさまざまな保存食が作られてきました。その中でも、日本の伝統的な保存食「かきもち」作りは、特に厳冬期の風物詩として親しまれています。

寒風で乾燥させて作られる「かきもち」は、カラフルなすだれのよう

「かきもち」は、もち米を蒸してついて作った餅を薄く切りわけ、藁で編んで吊るしたり、網の上に並べたりして、風通しの良い場所でじっくりと乾燥させて作ります。

寒風にさらされることで、餅の水分が抜けて軽くなり、保存性が高まります。この工程は大寒のころの冷たい空気が最適で、表面がパリパリになるまで1週間から10日、長い地域では1ヶ月ほどかけて干します。

冬に仕込んでおけば、一年中食べられる素朴なおやつになり、焼いたり、揚げたり、電子レンジで加熱したりして、手軽にいただくことができます。

昔はどこの家にもたいてい火鉢があったので、寒い冬には、火鉢を囲んで温まりながら、かきもちを焼いて食べたものでした。

青森県の「干し餅」はほろほろの食感(農林水産省「うちの郷土料理」より。画像提供元 : 柴田学園大学短期大学部)

似た製法で作るかきもちは各地に伝わっており、種類もさまざま。シンプルな白い餅、青のり、大豆、エビ、ヨモギ、胡麻など、色とりどりで目にも楽しいものです。味わいも、塩味や醤油味のものから、砂糖を多めに加えた甘めのものまで、土地ごとにバリエーション豊か。飾らないお茶請けとして、各地で愛されています。

地域によって呼び名は異なり、富山県では「かんもち(寒餅)」、青森県では「干し餅」、宮城県では「凍み餅」などの名も。形や作り方には多少の地域差がありますが、どれも冬の寒さを上手に利用して作られる保存食に変わりはありません。

より寒さの厳しい地域では、単に乾燥させるだけでなく、凍結を経て乾燥させる製法を用います。

青森県の「干し餅」は「凍り餅」とも呼ばれ、その名の通り凍らせて作るかきもちの一種で、津軽地方の五所川原市を中心に作られています。

普通につく餅よりも、水分を多めに加えて作った餅を準備し、それを薄く切り分けて藁や紐で編み上げます。乾燥させる前に、さらに水に浸して水分を含ませてから、屋外に吊るし干しにし、冷たい寒風にさらします。すると、寒さで餅が凍結し、暖かい日の昼間には融解する。それをくり返すと、中までしっかりと乾燥し、ほろほろとした独特の食感の干し餅ができあがります。

秋田県の「干し餅」も凍らせて作る。(農林水産省「うちの郷土料理」より。画像提供元 : 農家の宿 星雪館 門脇富士美)

こうした干し餅は、乾燥させるだけのかきもちよりもサクサクしていて、そのまま食べてもいいし、焼いたり揚げたりしてもまたおいしい、懐かしい味わいのおやつです。湿気を避ければ一年以上保存ができるため、昔はこの時期に大量に作って、田植えや農繁期の軽食にもしたそう。

このように寒ざらしにして作るかきもちは、青森県や秋田県、長野県などの特に寒さの厳しい地域で作られてきました。

大寒のころには、大根の寒干しも見かけることができます

かきもちは、大寒という季節を背景に、自然の力を活かして作られる日本人の知恵が詰まった食文化の一つ。ご紹介した地域では、一昔前までは、一家総出でかきもち作りをしたお宅も多かったといいます。貴重な保存食というだけでなく、家族や地域の絆を深める象徴的な存在となってきたのも魅力です。

一年の中で最も寒いこの時期、囲炉裏やストーブのそばで香ばしいかきもちを頬張る光景は、日本の季節感を象徴する温かな風景のひとつと言えるでしょう。

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清絢

食文化研究家
大阪府生まれ。新緑のまぶしい春から初夏、めったに降らない雪の日も好きです。季節が変わる匂いにワクワクします。著書は『日本を味わう366日の旬のもの図鑑』(淡交社)、『和食手帖』『ふるさとの食べもの』(ともに共著、思文閣出版)など。

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