二十四節気は「立春」を迎えましたが、まだまだ厳しい寒さが続きますね。
吐く息は白くて、朝は氷点下になることもしばしば。
そんな極寒の季節に、長野県諏訪地域では「寒天干し」の光景が広がっています。
寒天干しとは、天然の寒天をつくる工程の一つで、12月から2月中旬にかけて行われます。海藻である天草(テングサ)を煮て固めた棒状の寒天を、2週間ほど屋外に並べて、溶けたり凍ったりを繰り返すことで水分が蒸発し、天然の寒天ができあがるのです。

そもそも寒天づくりがはじまったのは、江戸時代初期。
京都・伏見の旅館の主人が偶然、「ところてん」が凍って乾燥しているのを発見。水で戻して食べてみると、海藻のにおいがしない、透き通ったところてんができました。「寒ざらしのところてん」から「寒天」と命名され、関西を中心に広まっていったといいます。
その後、諏訪地域に広まるきっかけとなったのは1830年ごろ。
諏訪の行商人・小林粂左衛門(こばやしくめざえもん)が、出稼ぎで訪れた兵庫県丹波地方の寒天づくりを見て、寒暖差が激しく、晴天率が高い諏訪の気候は寒天づくりにうってつけではないか、と思いつき、この製法を持ち帰りました。
それ以来、小林の狙い通り、寒天づくりは長野県諏訪地域に定着し特産品となりました。また、稲を刈り取った後の広い水田を利用することから農家の副業として適切であったことや、この地域の不純物の少ないきれいな水が寒天づくりの大きな利点となり、冬の風物詩となったといわれています。

偶然の発見からはじまった寒天づくりも、こうして自然と人間の暮らしが調和しながら守られてきたのだと思うとありがたい気持ちが増してくるようです。
ちなみに私にとって寒天は、幼い頃から少々「地味」な食べ物の部類でした(はっきり言って本当にすみません...)。今でこそ、和菓子屋さんでは寒天を使った華やかな商品が色々と出回るようになっていますが、私が幼い頃の寒天は、プリンやゼリーほどの華やかさはなく、食感もすこし固めで硬派な印象。母に「寒天あるよ〜」と言われても、あまりテンションが上がることはありませんでした。
しかし、ある日。突然母が「フルーツ牛乳寒天」をつくって出してきたのです。
さくらんぼ、もも、みかん、パイナップル...彩り豊かなフルーツが、真っ白い海に浮かんでいて、いつもの寒天がキラキラして見えたのを昨日のことのように覚えています。
ひとくち食べて感動して、またひとくち、ひとくち...とものすごい勢いで夢中でバクバクと食べました。母もニンマリ顔で、後から聞いたらつくり方はとっても簡単。フルーツ缶詰を使っていたそうで、それから大人になった今でも時折、自分でフルーツ牛乳寒天をつくるようになりました。

あのときから、私の寒天に対するイメージは大きく変わりました。
一度にたくさんつくれるのにヘルシーだし、食物繊維も豊富だというのだから得した気分になります。
ただ、実際の寒天づくりは天候など不確定要素を見極めながら行う、とても時間と手間がかかる作業だといいます。加えて原材料の価格高騰や需要の変化など様々な事情により生産者さんが減っているのが現状です。
どの業界にも共通していることだとは思うのですが...そんな話を聞くたびに切ない気持ちになります。

そもそも寒天は、スイーツだけではなく、スープに入れてとろみを出したり、テリーヌなどゼリー寄せ風のメニューに使ったりと料理にも使えるすぐれもの。寒天干しの風景やそれを支える人々の様子を思い浮かべながら、これからも思い出とともに味わっていきたいなぁと思います。
〈参考文献〉

高根恭子
うつわ屋 店主・ライター
神奈川県出身、2019年に奈良市へ移住。
好きな季節は、春。梅や桜が咲いて外を散歩するのが楽しくなることと、誕生日が3月なので、毎年春を迎えることがうれしくて待ち遠しいです。奈良県生駒市高山町で「暮らしとうつわのお店 草々」をやっています。好きなものは、うつわ集め、あんこ(特に豆大福!)です。畑で野菜を育てています。
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