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菜種きんとんなたねきんとん

旬のもの 2025.03.07

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こんにちは。和菓子コーディネーターのせせなおこです。

3月がやってきました。あまりにもあっという間にやって来る季節に追いつけずにいる時、落ち着いた心を取り戻させてくれるのはやっぱり和菓子だな、と感じています。

桜餅や柏餅など、各季節を代表する和菓子はもちろん、餡玉の周りにそぼろ状のあんをまぶした上生菓子「きんとん」は基本は同じ形でありながら、季節の移ろいを感じさせてくれる、魔法のような上生菓子だなと思っています。

たとえば、冬。真っ白な雪から顔を出す「ふきのとう」を表現します。初夏には「紫陽花」。秋には「錦秋」。真っ赤に色づく秋を表現します。同じ形なのにこれほどまでに季節を感じさせてくれる和菓子と職人さんの技に感服してしまいます。

そして、これからの季節、春をきんとんで表現するのが「菜種きんとん」です。お店によっては菜の花きんとんと呼ばれることも。緑色のきんとんに菜の花が咲いている様子が表現されています。

数年前、この季節に京都のとある和菓子屋さんに行った時のこと。職人さんが目の前で作ってくれた出来立ての生菓子を体験できるとの噂を聞きやってきました。1階は店舗、2階にそのカウンターがあるとのことで、おいしそうな和菓子を横目に2階へあがります。

2階へ着くと、立派なカウンターと奥にはお茶室と立派なお庭があり、今どこにいるんだっけ?と、一瞬わからなくなってしまうほどの非日常的な空間です。立ちすくんでいると、「こちらへどうぞ」と職人さんにお声がけいただき、職人さんの目の前へ。

「今日は菜種きんとんを作ります。」職人さんはそういうと、静かに作業を始めました。こし器の上にあんこをのせ、しゃもじで下に押すとそぼろ状のあんこが落ちていきます。

つぶあんのあんこ玉を先の細いお箸でつまむと、そのあんこ玉にまるでそぼろが吸い付いていくかのような、なめらかな動き。3分の2を超えた頃、そぼろ状のあんこは黄色のあんこに代わります。みるみる間に緑のあんこに菜の花がパッと咲き、菜種きんとんが出来上がりました。

「さぁ、どうぞ」目の前に咲いている菜の花をもう少し眺めていたいな、と思いつつ黒文字で一口切ったきんとんを口に入れると、ホロリとあんこがやさしく溶けていきました。

「わぁ…おいしい…」無意識にこぼれたおいしいに職人さんもニッコリ。

「うちの店では2週間ほどで生菓子の種類が変わります。どんな季節も見逃さないように。ぜひまたいらしてくださいね。」

どんな季節も見逃さないように。忙しい毎日に季節を忘れてしまいそうになるけれど、どの季節も一瞬一瞬がかけがえのないもの。忘れてはいけないなぁ、と思っていつつもやっぱり忘れてしまう私。和菓子はそんな私の背筋を伸ばしてくれるいい相棒です。

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せせなおこ

和菓子コーディネーター
福岡県出身。あんこが大好きな和菓子女子。和菓子を好きになったきっかけはおばあちゃんとつくったおはぎ。ぽかぽか暖かい春が好きです。おいしい和菓子を求めて全国を旅しています。

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