こんにちは、料理人の庄本彩美です。今日は春の訪れを告げる「筍の木の芽焼き」のお話です。
今の家に移り住んだ頃、友人が「山椒の木の株があるからあげるよ」と小さな苗をくれた。
以前、ベランダで山椒を育てたものの失敗していたので、今回こそは枯らさないぞ!と、庭に穴を掘って丁寧に地植えした。
冬が過ぎ、日差しが暖かくなり始めた頃、ふと庭に出てみると、木々が伸びやかに育ち、新芽をつけ始めていた。その中に山椒の木も見つけた。小さな木の芽が出ている。そっと摘んでみると、あの独特の香りがふわりと広がった。「あぁ、春が来たんだなぁ」と京都の底冷えの冬が終わり、待ちに待った春が到来したことに心が躍った。
この木の芽を使って、春の香りを存分に楽しめる料理が作りたい。そういえば、ちょうど実家から筍が届いている。私は「筍の木の芽焼き」を作ることにした。

まずは筍の穂先をくし切りにしていく。母は毎年この時期になると、採った筍をすぐに湯がいて送ってくれる。新鮮な筍を切るだけで食べられるなんて、なんと贅沢なことだろうか。包丁にすうっと伝わる柔らかい筍の感触が、食欲をそそる。
切った筍を味醂と醤油にしばらく漬けたら、フライパンで焼き目をつけていく。焼いている間に、木の芽を刻んでおく。焼きあがった筍を器に移したら、刻んだ木の芽を散らすだけ。意外と作り方はシンプルだ。

醤油の香ばしさが筍の苦味を包み、食べ応えがある。そこに木の芽の清々しい香りが、品のある料理へと引き立てている。
口の中いっぱいに広がる春の恵みに、つい顔がほころぶ。寒い冬で縮こまっていた体が、じんわり緩んでいくかのようだ。「春の食材を食べるっていいなぁ」と、季節の味をいただく喜びを、改めてかみしめた。
私はその後も庭の木の芽を使って、思う存分春の料理を楽しんだのだった。

冬から春の季節の変わり目は気候があたたかくなり、草木が芽生えることから「木の芽どき」といって、自律神経のバランスが崩れたり、新しい生活による精神的な疲労が起こったりしやすい。春野菜の苦味や豊かな香りは、冬の間に溜まったものを出し、体の巡りを良くしてくれるという。春になると木の芽や筍が食べたくなるのは、私たちの体が自然に欲し、整えようとしているからかもしれない。
しばらく経って、庭の木の芽を見にいくと、かなり葉が大きくなっていた。葉も茎も硬そうだ。木の芽和えにできる時期は、あっという間に終わったようだ。
特に春の食材の旬は瞬く間に通り過ぎる。慌ただしい日々の中にも、料理を通して季節を楽しみながら過ごしていきたいものだ。

庄本彩美
料理家・「円卓」主宰
山口県出身、京都府在住。好きな季節は初夏。自分が生まれた季節なので。看護師の経験を経て、料理への関心を深める。京都で「料理から季節を感じて暮らす」をコンセプトに、お弁当作成やケータリング、味噌作りなど手しごとの会を行う。野菜の力を引き出すような料理を心がけています。
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