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根曲がり竹ねまがりたけ

旬のもの 2025.05.13

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雪深い山の春を告げる味、それが「ネマガリタケ」です。

根元が弓のように細くしなやかに曲がった姿から「根曲がり竹」と呼ばれ、山菜として親しまれてきました。採れるのは、標高の高い山地に限られ、しかも雪解けの時期から初夏にかけての、ほんのわずかな間だけ。

笹が繁る山の斜面から生えてくる根曲がり竹。 (写真提供:清絢)

笹藪から顔を出す山の恵み

根曲がり竹といっても、多くの人にはあまり馴染みがないかもしれません。正しい名前はチシマザサといい、日本では、寒冷な山地に自生し、長野や岐阜、新潟など本州中部以北から、北海道の一部などに生えています。春になると地中から新芽が伸びてきて、日本ではこれをタケノコとして食用にしてきました。

豪雪地帯に暮らす人々にとって、根曲がり竹は春を迎えたよろこびを実感する食べものです。雪が溶け、山が目覚めると、その合図を聞き逃すまいと、人々は山へ分け入り、鬱蒼と繁る笹藪で身を屈めて、この細く可憐なタケノコを探します。まるで宝探しのような山菜採りの風景もまた、地域の食文化を支える営みのひとつといえるでしょう。

標高1500m程度の山ではチシマザサが山を覆うように群生していることも。 (写真提供:清絢)

根曲がり竹は山地に生えるため、孟宗竹よりもシーズンは遅く、地域にもよりますが、5月中旬から6月にかけて。山菜採りに行く場合は、服装など装備の準備をしっかりと整えて、採取可能な場所やルールもきちんと確認してから行きましょう。

根曲がり竹のおいしさを知っているのは人間だけではありません。熊にとっても根曲がり竹は春のご馳走。鈴やラジオなど、熊除けのアイテムも必須です。

楽しい山菜採りは、夢中になっているうちに方向感覚を失って、笹藪に迷い込んでしまうことも。安全に楽しむためにも、対策は万全に。

たっぷりのお湯で茹でて皮をむきましょう。 (写真提供:清絢)

アクがなく食べやすい筍

根曲がり竹の魅力は、山菜にも関わらずアクが少ないところ。茹でて皮をむけば、みずみずしく、淡い緑の美しい筍があらわれます。皮付きのままで炙って、焼き筍にしてもよく、その食べやすさに心惹かれます。

ただ、時間がたつとアクが強くなりますので、新鮮なものをすぐに下処理するようにしましょう。

茹でて味噌をつければ、旬のご馳走のできあがり。 (写真提供:清絢)

香りはほんのり甘く、柔らかさとシャキシャキ感を併せ持った歯ごたえ、そしてクセのない味わい。そのためいろいろな料理と相性がよく、焼いてもよし、煮てもよし、汁ものにもピッタリなのです。

「根曲がり竹と鯖」という意外な出会いから生まれたお味噌汁。

長野県の北信地方や新潟県の上越地方で親しまれているのが、根曲がり竹とサバ缶の味噌汁です。

内陸部では昭和の中頃から、保存が効いて手軽なサバの水煮缶が重宝されてきたそう。クセのない根曲がり竹の味わいに、深みのあるサバの旨みとコクが驚くほどよく合い、まろやかな味噌汁になります。

今では家庭の味として地域に浸透しており、根曲がり竹のシーズンには、スーパーにサバ缶がズラリと並んでいるほど。

山の清涼な空気をそのままお碗に閉じ込めたような豊かな一杯は、根曲がり竹の短い旬を象徴する、贅沢なご馳走です。運良く新鮮な筍に出会えたら、ぜひ作ってみてくださいね。

舌の上にふわりと広がる山の春。季節の贈り物は、どこか懐かしいぬくもりのある味わいで、忘れられない一杯として心に残るはずです。

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清絢

食文化研究家
大阪府生まれ。新緑のまぶしい春から初夏、めったに降らない雪の日も好きです。季節が変わる匂いにワクワクします。著書は『日本を味わう366日の旬のもの図鑑』(淡交社)、『和食手帖』『ふるさとの食べもの』(ともに共著、思文閣出版)など。

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