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新生姜の甘酢漬け

旬のもの 2025.06.02

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こんにちは、料理人の庄本彩美です。今日は「新生姜の甘酢漬け」のお話です。

梅雨入りの季節を迎え、保存食の仕込みで慌ただしい時期になった。 実山椒のしまつは、小さな粒をぷちぷちと摘み取ると、爽やかな香りが鼻を抜けて、心が穏やかな気持ちになる。土の付いたらっきょうは、実家の畑の様子を思い浮かべながら、薄皮を剥いて行く。時間のかかる梅干しや梅シロップ作りも、 手をかけるほどに愛おしさが増してくる。慌ただしい中にも、それぞれの仕込みしごとは楽しい。

そんな保存食作りのなかで、私がついつい後回しにしてしまうのが、新生姜の保存食づくりだ。連日の保存食ラッシュに、流石にお腹いっぱいになってしまい、なかなか新生姜にまで手が伸びないのだ。

私が新生姜の甘酢漬けを作るようになったのは、稲荷寿司作りに夢中になった時のこと。京都には、老舗の豆腐屋が沢山ある。いろんな店に足を運び、稲荷揚げを買って稲荷寿司を作るうちに、「生姜の甘酢漬けも手作りして添えてみたい」という思いが募ってきたのだ。

まずは美味しい新生姜を手に入れなければ…。生姜といえば、高知県が全国トップの生産量を誇る。高知は年間を通して温暖で降水量が多く、生姜の生育に適しているそうだ。近所に、高知出身で八百屋を営む知り合いがいたので聞いてみると、良い仕入れ先があるという。
数日後、新生姜が届いた。皮は白くて透明で、手に取ると瑞々しさが驚くほど伝わってくる。まるで初夏の朝露を閉じ込めたかのようだ。そして、茎の付け根のピンクの部分が可愛らしい。

丁寧に洗って節の間の土や、硬い部分を取り除く。口当たりをよくするべく、薄く薄くスライスしていく。繊維に沿って包丁を滑らせるたび、爽やかな生姜の香りがふわりと台所に広がる。
沸騰したお湯でさっとゆがくと、新生姜の白さがいっそう際立っていた。
最後に水気を切った生姜と、先にとっておいたピンクの部分を容器に入れ、煮立たせた甘酢を入れて完成だ。

翌日、冷蔵庫から取り出してみると、白かった生姜が魔法にかかったように、淡いピンク色に染まっている。「わぁ!綺麗…!」思わず声が出る。「この可愛らしい色が見られただけで、作った甲斐があった」なんて思いながら、新生姜の甘酢漬けの入った保存瓶をしばし眺めていた。

さっそく稲荷寿司を作り、出来上がった甘酢漬けを添えてみた。茶色い稲荷の側に、ちょこんと自然な色のピンクが寄り添っている。稲荷寿司の合間に、新生姜の甘酢漬けを箸休めにいただく。最初はシャキシャキとした心地よい歯ごたえ、その後にピリッとした爽やかな辛味が広がり、追いかけるように優しい甘さが溶ける。 自分好みに薄くスライスした新生姜はより繊細で、自家製の稲荷寿司の素朴な甘さと絶妙に調和している。
「もっと早くこの味に出あっていればよかった」と、後悔するほど、美味しい組み合わせであった。

それ以来、新生姜の甘酢漬けは、めでたく我が家の保存食の常連となった。
ガリとしてだけでなく、素麺や冷奴に乗せるとさっぱりして、暑い日には必需品だ。細く切ってサラダに散らせば、程よいアクセントになる。混ぜご飯に加えると、食欲をそそられる。ふっくらとした玉子焼きに混ぜ込めば、隠し味にもってこいなのである。

梅雨の季節の、ピンク色の小さな宝石。日々の食卓に添えれば、ささやかな喜びを運んでくれるだろう。

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庄本彩美

料理家・「円卓」主宰
山口県出身、京都府在住。好きな季節は初夏。自分が生まれた季節なので。看護師の経験を経て、料理への関心を深める。京都で「料理から季節を感じて暮らす」をコンセプトに、お弁当作成やケータリング、味噌作りなど手しごとの会を行う。野菜の力を引き出すような料理を心がけています。

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