奈良を代表する名産品のひとつに「奈良漬(ならづけ)」があります。
瓜、きゅうり、ナス、スイカ、生姜などを酒粕に漬けたもので、ご飯や晩酌のお供に欠かせない奈良県民にとって定番の漬物です。
はじめて奈良漬を食べたとき、風味の豊かさに驚きました。
酒粕の香りがふんわりと鼻に抜けて、噛むとシャッキリ歯ごたえがある。塩味や酸味、お米の甘みがいい塩梅で混ざり合って、噛むほどに奥ゆかしさが増していく。これまで食べたことのない漬物との出合いに、正直戸惑いました。食べるほどにいつの間にか、お肉やお魚などメイン料理のポジションではないけれど、あったらうれしい、ないとさみしい存在に。とくに、白いご飯やお粥を食べるときには欠かせない漬物となりました。
奈良漬の最古の記録としては、奈良時代にまでさかのぼります。
平城京から出土した木簡に「加須津毛(かすづけ/粕漬け)」の名前が記されていたといいます。その頃の粕漬けは、どぶろくの上澄みを酒として飲み、底に溜まった液体で野菜を漬けたものだったそうです。当時の酒類は貴重品であり、国の機関のみで醸造されていたため、粕漬けも都の貴族たちのみ食べる高級食品のひとつでした。
室町時代になると、奈良はお酒の産地となり、その酒粕を用いた奈良産の漬物を「奈良漬」と呼ぶようになりました。商品として販売されるようになったのは、江戸時代に奈良の町医者がシロウリを酒粕に漬けて製造、販売したことが始まりだと伝わっています。
そのほかいろいろな食材で漬け込むことが好評となり、また保存もきくので、県外への手土産に持っていく機会も増えて奈良の名産品へと成長。全国へと広がっていきました。
こうして見ると奈良漬は、奈良の土壌や風土が育てた食材であることがよくわかるなぁと思います。
さて、奈良漬の製造方法や漬け込み期間は、製造者によって様々ですが、一貫して「丁寧に時間をかけてつくられること」が大きな特徴です。手順としては野菜を前処理し、塩漬にしてから酒粕に漬けること...これらを複数回繰り返します。その間に、野菜の塩分が少しずつ外へ出ていき、かわりに酒粕に含まれるうま味成分が野菜のなかへと染み込んでいきます。塩分濃度を調整しながら、長いところだとおよそ1〜2年かけて仕上げるのだとか。
漬け込むことで塩分がうま味にすり変わっていくなんて...。
なんだか手品みたいでおもしろいですね。
最近私は奈良漬を、いろいろな料理に使うようになりました。
食感とうま味のアクセントとして、タルタルソースに刻んで入れてみたり、濃厚なコクがあるチーズなどと一緒に食べてみたり。すると、単品で味わうのとはまた違った風味の豊かさが口いっぱいに広がってやみつきに。ますます大好きな漬物になっていきました。
まだまだ潜在的な可能性をたっぷり秘めている奈良漬。
これからも食のたのしみを広げてくれる頼もしい相棒として、長く付き合っていきたいと思います。
参考
書籍:
下中 弘 『世界大百科事典』平凡社( 1997年)

高根恭子
うつわ屋店主
神奈川県出身、2019年に奈良市へ移住。
好きな季節は、春。梅や桜が咲いて外を散歩するのが楽しくなることと、誕生日が3月なので、毎年春を迎えることがうれしくて待ち遠しいです。奈良県生駒市高山町で「暮らしとうつわのお店 草々」をやっています。好きなものは、うつわ集め、あんこ(特に豆大福!)です。畑で野菜を育てています。
