“奈良にうまいものなし ”
これは、文豪 志賀直哉が随筆『奈良』に「食ひものはうまい物のない所だ」と記したことから広まったといわれています。
しかし、よくよく読み進めてみると志賀は「わらび粉や豆腐、がんもどきは評判が良い」などと書いているので、奈良の食べ物を全否定しているわけではなさそう。それなのに、冒頭の言葉がいつの間にかひとり歩きしてしまい、いつしか奈良に住む人たちでさえ口を揃えて「奈良にうまいものなし」という人が増えてきました。
しかし、ほんとうにそうなのでしょうか。
奈良の名物といえば、奈良漬、三輪そうめん、日本酒、葛餅、柿など..。
どれも華やかさには欠けるものの、生活の身近にある食べ物として親しまれています。
そして忘れてはいけないのがもう一つ、今日のテーマ「柿の葉寿司」です。
大きな柿の葉にくるまれた四角い押し寿司。
柿の葉を外すと、なかからは塩で締めた鯖と酢飯がお目見えします。

「えっ、これってお寿司なの..?」
私は奈良に来てはじめて柿の葉寿司を見たとき、驚きました。
所謂お寿司といえば、彩り豊かなお魚が酢飯にのっているイメージ。
対して柿の葉寿司は、すべて柿の葉にくるまれて中身が見えない、地味な見た目(ごめんなさい)だったからです。
ですが、そもそもなぜ柿の葉に巻かれた押し寿司なのでしょうか。
その理由を後から知って腑に落ちました。そこには「海のない奈良県」ならではの知恵が詰まっていたのです。

柿の葉寿司の由来は諸説ありますが、江戸時代、紀州(和歌山県)の漁師が、熊野灘で取れた鯖を塩で締め、峠を越えて吉野川沿いの村(奈良県)へ売りに出かけたことをきっかけに生まれたといわれています。
ちょうどその頃吉野の村では夏祭りが開催されており、山奥に住む人たちにとって海の幸は貴重な食材だったので大喜び。ただ、塩締めした鯖はそのまま食べるとしょっぱくなるので、薄く切って酢飯の上にのせました。さらに、酢飯を乾燥から防ぐため、裏山にあった「柿の葉」でくるむようになりました。のちに柿の葉には、柿タンニンというポリフェノールが含まれていて、抗菌・抗ウイルス作用があるということがわかり、それからは保存食として人々に定着していったといいます。
まさに奈良の風土が生んだ郷土料理だということがわかりますね。
また、柿の葉寿司は奈良県だけではなく、和歌山県や石川県、鳥取県でも食されていて、地域によって作り方やかたち、ネタが少しずつ異なっているそうです。色々な地方の柿の葉寿司を食べ比べてみたくなりますね。

さて、私は奈良に移住してから今年で5年目になりますが、県内の色々な柿の葉寿司を食べてきました。有名なお店のものから、小さな個人店がつくっているものまで。お店によって、酢飯の柔らかさや酢の濃さ、鯖の塩梅が少しずつ違うので、味比べをしながらたのしんでいます。
そのなかでも特にお気に入りなのが、道の駅で買う柿の葉寿司。
つくった場所や人の名前が書いてあって、味も具材も個性豊か。いつの間にか、生産者さんの名前を覚えていて、目指して買いにいくこともしばしば。ちゃんと顔が見えているような安心感に包まれて食べるおいしさはまた格別だなぁと思います。

柿の葉の香りと鯖の旨みが口いっぱいに広がる柿の葉寿司。
みなさんもぜひ奈良にきたら食べてみてくださいね。
“ 奈良にうまいものなし ”..なんて嘘だった!ということが、きっとわかることだろうと思います。

高根恭子
うつわ屋 店主・ライター
神奈川県出身、2019年に奈良市へ移住。
好きな季節は、春。梅や桜が咲いて外を散歩するのが楽しくなることと、誕生日が3月なので、毎年春を迎えることがうれしくて待ち遠しいです。奈良県生駒市高山町で「暮らしとうつわのお店 草々」をやっています。好きなものは、うつわ集め、あんこ(特に豆大福!)です。畑で野菜を育てています。
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