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落花生らっかせい

旬のもの 2025.09.13

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9月も半ばになると、畑の土の中から顔をのぞかせる黄色いサヤ。掘り起こした瞬間に漂うのは、力強い土の香りとほのかな豆の香り。

日本の秋の実りの中でも、少しユニークな姿をした食材のひとつが「落花生」です。

土から掘り起こすと、落花生のサヤがずらりと並んでいます。

日本への伝来と普及の歩み

落花生は南アメリカ原産の一年草です。現地では古くから食用にされたようで、ペルーにある紀元前の遺跡からも落花生の殻が見つかっているほど。16世紀ごろにヨーロッパを経てアフリカやアジアへと伝わり、日本には江戸時代に伝来したとされます。

「落花生」の名の通り、夏に黄色い花を咲かせたあとは、地面にむかって伸びていき、土の中で実をつける珍妙な作物だったためか、日本では食用として広まるには少し時間がかかり、本格的に栽培が普及したのは明治時代以降です。

きっかけは明治政府がアメリカから取り寄せた落花生の種子を各地に配って栽培を奨励したこと。そのほかにも、神奈川県では横浜居留地の中国人から種子を手に入れた人たちが独自に栽培を始めるなど、各地で落花生栽培が広まっていきました。

その後、名産地として知られるようになるのが、千葉県八街市などの千葉県北部地域。このあたりは、富士山や箱根山の火山灰が降り積もってできた関東ローム層という土壌で、やわらかくて水はけがよく、落花生の栽培にぴったりだったのです。

今でも、千葉の落花生は全国ブランドとして知られ、毎年新豆の季節を楽しみにしているファンがたくさんいるのです。

産地では秋になると落花生を乾燥させるための「ぼっち」という野積みがあちこちに見られます。

ぜひ味わいたい国産落花生

落花生は「ピーナッツ」として親しまれ、普段からおやつやおつまみに食べる機会が多いことと思います。しかし実は、国内で流通する落花生の9割は外国産で、国産はほんの1割ほど。日本で生産される落花生の8割以上が千葉県産といいます。

千葉で最も多く栽培されているのは「千葉半立」という品種。粒は小ぶりながらも、特に味が濃く、香ばしさも群を抜いており、最高級品とされていますので、ぜひ一度味わってみてください。

塩茹での落花生はつややかでやわらかく、乾燥したピーナッツとは全く違うおいしさです。

秋の味覚としての落花生

また、産地ならではの食べ方に「ゆで落花生」があります。これは、掘りたての生落花生を塩茹でにして食べるというもの。茹でたての柔らかい食感と、ほのかな甘みは乾燥した香ばしい豆とはまったく別の食べ物のようで、枝豆や栗にも似たやさしい味わい。これこそ収穫期ならではの贅沢です。

もともとは農家さんが未熟なサヤを茹でて食べていたのがはじまりといわれますが、今ではゆで落花生に向いた品種「郷の香」が誕生するなど、近年、千葉の特産品として首都圏でも人気を集めています。

落花生味噌は千葉県では学校給食にも登場するほど親しまれている料理。

さらに千葉県では、煎り落花生を甘味噌で和えた「落花生味噌」や落花生入りの煮豆、落花生おこわなど、日常的にいろいろな料理に落花生を加える習慣があり、まさに“土地の味”として親しまれています。

ピーナッツの響きから外国の食べ物という印象が強いものの、ひと粒ごとにぎゅっと詰まった味わい深さは、まさしく秋の実りの象徴。世界を旅して日本に根づいた落花生は、いまや千葉を中心に、日本の秋の味覚のひとつに数えられる存在になっています。

落花生の旬は9月から10月。畑から掘ったばかりの新鮮な豆を味わえるのはほんの短い期間だけです。今年の秋は、いつものピーナッツとは違う、落花生の新たな魅力を知ってくださいね。

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清絢

食文化研究家
大阪府生まれ。新緑のまぶしい春から初夏、めったに降らない雪の日も好きです。季節が変わる匂いにワクワクします。著書は『日本を味わう366日の旬のもの図鑑』(淡交社)、『和食手帖』『ふるさとの食べもの』(ともに共著、思文閣出版)など。

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