こんにちは。和菓子文化研究家のせせなおこです。
日本の伝統的な行事のひとつに「五節句」があります。1月7日の人日の節句(七草)、3月3日の上巳の節句(ひな祭り)、5月5日の端午の節句、7月7日の七夕。いずれも季節の節目を祝う日で、草花や食べ物を通して無病息災や長寿を願う風習が受け継がれてきました。そして、今月、9月9日は五節句の一つである重陽(ちょうよう)の節句。
重陽とは、奇数が重なる日を「陽」としてめでたいと考え、最も大きな数である九が重なる日を特に大切にしたことから名付けられたといわれています。そんな重陽の節句で行われていたのは、「着せ綿」と呼ばれるもの。前日の夜に菊の花に被せておいた真綿に、翌朝、朝露と共に菊の香りが染み込んだ綿で体を拭い、無病息災や長寿を祈りました。初めてこの行事を知った時、菊の香りが香るきらめく朝露が目に浮かび、すごく美しいなと感じました。あまりメジャーではないものの、この「着せ綿」という行事を知って以来、私は毎年重陽の節句が来るのが楽しみになりました。
9月の和菓子には、重陽の節句が「菊の節句」とも呼ばれていたことにちなみ、菊をテーマにした和菓子が数多く登場します。先程の「着せ綿」をモチーフにしたお菓子はもちろん、花びらをかたどった練り切りや、職人技が光る「はさみ菊」は圧巻です。そんな数ある菊のお菓子の中で私のお気に入りの和菓子は「光琳菊」です。
光琳菊とは江戸時代に活躍した尾形光琳が描いた菊をモチーフに作られる和菓子のこと。日本の絵画というとなんだか敷居が高くて恐れ多いものでしたが、それを覆してくれたのは尾形光琳の絵でした。何百年も前に描かれたとは思えないモダンでかわいらしい花々。尾形光琳の描いたものは他にも和菓子のモチーフとして用いられ、光琳梅や杜若が有名です。
ちなみに、尾形光琳が画家として生計を立て始めたのは40歳を過ぎてから。遊び人だった光琳は実家の財産を使い果たし、お金に困り、絵を仕事にしたというエピソードがあります。お金を使い果たし借金を抱えるという追い込まれた状況でありながら、いざ絵を描くとこんなに立派なものを描く、これぞ天才、というエピソードだなと衝撃を受けました。この人間性も含めて私は尾形光琳が大好きです。
着せ綿や重陽の節句、そして尾形光琳。和菓子のおかげで知らなかった日本の素敵な文化に触れることで、少しずつ世界が広がっています。一見、無関係に思えることもどこかで繋がっていて、何気ないきっかけが思いもよらない扉を開いてくれるのではないでしょうか。そんな小さな発見を、これからも大切にしていきたいものです。

