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日本の色/承和色そがいろ

にっぽんのいろ 2024.09.09

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染織家の吉岡更紗です。朱色、紅、古代紫、葡萄色、藍色、萌黄色…日本では様々な色に美しい名前がつけられてきました。今回は、その中から「承和色(そがいろ)」についてご紹介致します。

承和色

9月に入っても、日中はまだまだ暑い日が続いていますが、日の入りが少しずつ早くなり、夕暮れどきに心地よくそよぐ風が、秋の訪れを感じさせてくれます。本日9月9日は「五節句」の1つ、「重陽(ちょうよう)の節句」です。

五節句は、古代中国から伝わりました。中国では、奇数が縁起のいい数字と考えられていますが、1月1日、3月3日、5月5日、7月7日、9月9日の5日は縁起の良い奇数(陽)がかさなる為、陰となり、かえって縁起が悪いと考えられていました。そのため、邪気を払い、無病息災を祈る様々な儀式が行われるようになりました。それが現代にも桃の節句や、端午の節句、七夕などの行事として残っています。

9月9日の「重陽の節句」は、奇数の中でも最も大きな数字が重なる日なので、一番大切にされていたのですが、現代では、やや忘れられてしまった印象があります。この季節に咲く菊の節句とも呼ばれていて、旧暦9月9日に宮中では、菊にまつわる様々な行事が行われてきました。

その1つは、お酒を入れた盃に菊の花びらを浮かべたものを飲みながら、菊の花を愛で、詩を詠んで祝うというものです。これは古代中国の「菊慈童(きくじどう)」の伝説に由来しています。中国周の時代、穆王(ぼくおう)に寵愛された童子が、王の枕をまたぐという罪を犯してしまい、酈懸山(れっけんざん)という場所に左遷されてしまいます。そこに流れる川の上流には、菊花の園があり、菊にたまった露が川に滴り落ちていました。その川の水を飲み続けた童子はやがて仙人となり、800年以上たってもその姿のままだったと伝えられています。

長く咲き、香り高い菊の花は、漢方の世界でも血圧を下げる効能などがあるといわれていて、その宴では菊の生命力を頂き、いつまでも菊慈童のように若さを保てるように、と祈りました。

もう1つは「菊の被綿(きせわた)」です。絹の真綿を黄色、赤、白など様々な彩りに染めて、9月9日を迎える前の晩に菊の花に被せていました。一晩置くと、夜露に濡れた真綿には菊花の香がうつっていくのです。翌日にその真綿で顔や体をぬぐうと、菊のもつエネルギーによって若さが保たれる、と信じられていました。

菊の着せ綿

白菊には黄色の綿、黄色の菊には赤い綿、赤い菊には白の綿と色の組み合わせルールができたのは、江戸時代以降で、平安時代は小菊に色とりどりの真綿をかぶせ、その彩りを楽しんだと言われています。

平安時代の初め、京都に都を遷した桓武天皇の孫にあたる仁明天皇は、文学、漢字、書などを愛した聡明な方でした。また、ことのほか黄色い菊を好まれたといい、宮中にもたくさんの黄菊を植えられたそうです。衣装も黄色をお好みになったそうで、在位中は黄色が大変流行していたそうです。

菊の襲

黄菊の花色の澄んだ、透明感のある色は黄檗(きはだ)で染めて表され、「承和色(そがいろ)」と名づけられています。仁明天皇の在位年号である「承和」が由来だそうで、天皇が愛した菊を「承和菊」と呼んだところから始まったとされているそうです。

黄蘗

写真提供:紫紅社

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吉岡更紗

染織家・染司よしおか6代目
京都市生まれ、京都市在住。紫根、紅花、藍などすべて自然界に存在する染料で古法に倣い染織を行う「染司よしおか」の6代目。東大寺二月堂修二会や薬師寺花会式など古社寺の行事に染和紙を納める仕事もしているため、冬から春にかけてが一番好きな季節。美しい日本の色を生み出すために、日々研鑽を積む。

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