明けましておめでとうございます。俳人の森乃おとです。
お正月を寿ぐ祝い花として、人気があるのがラン科のシンビジウムです。寒さに強く長く咲く上、「和」のしめやかさと「洋」の華やかさを併せ持つことが魅力です。贈答用の鉢花のほか、ウェディングブーケなどのアレンジメントの花材としてもよく使われています。
起源は東洋で「四大洋ラン」の一つ
シンビジウムは、カトレア、パフィオペディラム、デンドロビウムとともに「四大洋ラン」の一つに数えられています。
ゴージャスで大輪の花を咲かすカトレア。食虫植物に似た大きな唇弁(リップ)を持つパフィオペディラム。鮮やかで南国的な花色のデンドロビウム。ほか「四大洋ラン」と比較して、シンビジウムは花姿も花色も控えめで落ち着いていることが特徴です。
さてシンビジウムは、ラン科シンビジウム(シュンラン)属の常緑多年草。日本や中国、タイ、インドなど主に東アジアから東南アジアに自生する原種を交配して生まれた、東洋にルーツを持つ「洋ラン」です。
実は、日本で古くから親しまれているシュンラン(春蘭)やカンラン(寒蘭)もシンビジウムの仲間。しかし園芸的には「東洋ラン」として、区別されています。
今でこそ、ラン科植物としての人気はコチョウラン(胡蝶蘭)に首位を奪われていますが、1990年代までは国内で最も流通している洋ランだったそうです。
昆虫を誘い入れる鮮やかなる唇弁=リップ
シンビジウムの株の根元には、茎が変形したバルブ(偽球茎)があり、そこに栄養分を蓄え、長さ60~80㎝の細長い葉を左右に扇状に広げながら成長します。草丈は品種によって異なりますが、30~80㎝ほど。
開花期は年に一度。周年出回る花ですが、最盛期は12~4月です。バルブの横から花茎を出し、7~30個の花をつけます。花茎には直立するものやアーチ状になるものがあります。花径は7~10cmで、色は白・黄・ピンク・緑などさまざま。花持ちがよく、2カ月近く楽しむことができます。
花は、ほかのラン科と共通して、3枚の花弁と3枚の萼片(がくへん)から構成されています。花弁のうち、下の1枚はリップと呼ばれ、他の花弁より大きく色も鮮やかで、多くの場合、袋状をしています。これは花粉を運んでくれる昆虫を誘い入れ、よい着陸場としての役目も果たすためです。他の2枚の花弁と萼片は同じ色をしています。
日本に渡来したはじめての「洋ラン」
シンビジウムの属名は英名と同じでCymbidium。ギリシア語の「cymbe(舟)」と「eidos(形)」を語源とし、大きく幅の広い唇状のリップが舟に似ていることに由来するといわれます。
シンビジウムの和名は「ゲイショウラン(霓裳蘭)」。“霓裳”とは、虹のように美しい衣のこと。転じて、仙女の軽やかな姿も意味します。
シンビジウムが渡来したのは、幕末の1859年。スコットランド出身の商人で、長崎に邸宅をかまえたトーマス・グラバー(1838~1911年)が、上海経由で持ち込んだと記録されています。
日本に渡来したはじめての洋ランで、東洋のランがヨーロッパで改良され里帰りした形です。長崎市の観光名所「グラバー園」では現在も、その子孫の栽培が続けられており、ラン愛好家たちから「グラバーさん」と呼ばれて愛されています。
花言葉は「飾らない心」「誠実な愛情」「高貴な美人」
花言葉の「飾らない心」「誠実な愛情」は、花色が洋ランの中でも原色が少なく、淡くやわらかいことから生まれました。「高貴な美人」は、端正で気品ある花姿に由来します。
シンビジウムは花色が豊富なため色別の花言葉もあり、黄色は「親しみ」「明るい希望」。ピンクは「上品な愛情」、白色は「深窓の令嬢」など。
さて新年を祝する「蘭」といえば、俳人・医師の岡井省二(おかい しょうじ/1925~2001年)に、次のような句があります。
元日、訪れた場所には真白の蘭の花が活けられていた――。それだけのことなのに、「元日」と「蘭の白」とが響き合い、まっさらで清らかな新年への言祝ぎとともに、明るい光が胸の中にまで射しこんでくるような思いがします。この「蘭」の種類は不明ですが、もしかして、気高く清楚な美しさを湛えた、白いシンビジウムなのかもしれませんね。
みなさまの一年が、シンビジウムのような優しい光に包まれたものでありますように。本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。
シンビジウム
学名(英名):Cymbidium
ラン科シンビジウム(シュンラン)属の常緑多年草。日本や中国、タイ、インドなど主に東アジアから東南アジアに自生する原種を交配して生まれた園芸種で、代表的な「洋ラン」の一つ。草丈は30~80㎝で、開花期は年に一度。周年出回るが、最盛期は12~4月。花径は7~10cmで、色は白・黄・ピンク・緑などさまざま。祝い花として人気が高い。

森乃おと
俳人
広島県福山市出身。野にある草花や歳時記をこよなく愛好する。好きな季節は、緑が育まれる青い梅雨。そして豊かに結実する秋。著書に『草の辞典』『七十二候のゆうるり歳時記手帖』。『絶滅生物図誌』では文章を担当。2020年3月に『たんぽぽの秘密』を刊行。(すべて雷鳥社刊)
