こんにちは。俳人の森乃おとです。
6月になり、庭にはアガパンサスがすらりと優雅に立って、清涼感のある淡い紫色の小花を半円状に咲かせています。和名はムラサキクンシラン(紫君子蘭)。アジサイ(紫陽花)やアヤメ(菖蒲)と並び、雨の季節を美しく彩る代表的な草花です。

開花前、花芽はネギ坊主のような苞葉に包まれている
アガパンサスはヒガンバナ科アガパンサス属の球根植物の総称。原産地は南アフリカで、10~20種が自生しています。代表的な種はAgapanthus africanus(アガパンサス・アフリカヌス)で、単に「アガパンサス」といえば本種を指します。
17世紀には、ヨーロッパで観賞用として栽培されており、現在では交配・改良が進み、草丈や花色、草姿などが異なる300以上の園芸品種が作出されています。

開花期は6~7月。地際から肉厚で光沢のある細長い葉を何枚も出し、その間から50~100㎝ほどの花茎を長く伸ばします。特徴は、その先端にネギ坊主のような薄緑の苞葉(ほうよう)があり、花芽を覆って守っていること。花芽が十分に育って開花が近づくと、苞葉が破れて中から花が姿を現します。
花序は10~30個の小花が放射状に輪生。径2.5~5cmほどの漏斗型の花は、先が6つに裂けています。花の基本色は青紫ですが、品種によってはコバルトブルーや白もあります。

6月の花嫁のための“愛の花”
アフリカ原産で、花がユリに似ていることから、英名は「African lily(アフリカのユリ)」。また、ナイル川周辺で栽培されることが多かったため、「Lily of the Nile(ナイルのユリ)」とも。
日本には明治時代に渡来して以来、花壇や鉢植え・切り花用に栽培されています。和名の「ムラサキクンシラン」は、同じヒガンバナ科のクンシラン(君子蘭)に似て、紫色の花を咲かせることが由来。しかし現在では、ほとんど和名は使われていません。

学名のAgapanthusは、ギリシャ語で無償の愛を意味する「agape(アガペー)」と、花を意味する「anthos(アンサス)」を組み合わせた言葉が語源。ヨーロッパでは古くより“愛の花”として親しまれ、恋人や大切な人に贈られてきました。またジューンブライド(6月の花嫁)の季節に咲くことから、ブライダルブーケやフラワーアレンジメントなどでも人気があります。
アガパンサスと虹の女神の伝説
ギリシャ神話では、アガパンサスについて次のような物語が語られます。
最高神ゼウスの妻、女神ヘラにはイリスという侍女がいました。ヘラはイリスをとても可愛がっていました。ゼウスもイリスを可愛がり、やがて恋愛感情を抱くようになりました。ゼウスからの求愛に、ヘラを心より敬愛していたイリスは悩み苦しみ、「私のこの身を、どこか遠くへと追いやって下さい」とヘラに頼みました。ヘラはその願いを聞き入れ、七色に耀く首飾りをイリスの首にかけ、神の酒を振りかけました。するとイリスはたちまち虹の姿となり、自由に空を翔ることができるようになりました。このとき、地上にこぼれた神酒の雫から開いた花がアガパンサスなのです――。
ちなみにこのとき咲いた花は、アヤメの仲間のアイリスだともいわれています。

アガパンサスの花言葉は、「ラブレター」「恋の訪れ」「愛しい人」など。いずれも“愛の花”にふさわしいものばかりです。ほかに「知的な装い」もあります。これは、淡い青紫色のさわやかで繊細な花姿から生まれました。

また、特に白いアガパンサスには「誠実な愛」という花言葉があります。プロポーズや結婚記念日などに、愛しい方へのプレゼントに添えて、想いを伝えてみても素敵ですね。
歌人・鳥海昭子の短歌の、ポケットに入れられた“きみの便り”は、きっと溢れるほどの愛を伝えてくれるラブレターだったはず。花火のように涼やかな紫や青、白色の花を咲かせるアガパンサスの道を歩いてゆけば、祝福された未来だけが目の前に広がっていくことでしょう。
アガパンサス
学名 Agapanthus
英名 African lily , Lily of the Nile
ヒガンバナ科アガパンサス属の球根植物の総称。原産地は南アフリカで、代表的な種はAgapanthus africanus(アガパンサス・アフリカヌス)。種小名は「アフリカの」という意味。6~7月、50~100㎝ほどの花茎を長く伸ばし、径2.5~5cmほどの漏斗型の花を放射状に多く輪生させる。花の基本色は青紫。品種によってはコバルトブルーや白なども。

森乃おと
俳人
広島県福山市出身。野にある草花や歳時記をこよなく愛好する。好きな季節は、緑が育まれる青い梅雨。そして豊かに結実する秋。著書に『草の辞典』『七十二候のゆうるり歳時記手帖』。『絶滅生物図誌』では文章を担当。2020年3月に『たんぽぽの秘密』を刊行。(すべて雷鳥社刊)
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