雪国の春を象徴する植物の一つが、キンポウゲ科の「雪割草(ゆきわりそう)」。呼び名のとおり、地を覆う雪を割って可憐な姿を現し、白やピンク、青などの花を咲かせ、いち早く新しい季節の訪れを告げてくれます。そのため、キク科のフクジュソウ(福寿草)とともに、新春を寿ぐ縁起のいい祝い花として、古くから愛されてきました。
またの名をミスミソウ、あるいは「肝臓の葉」
「雪割草」という名は園芸上の通称名。キンポウゲ科ミスミソウ属の常緑多年草の仲間を指し、葉が三角形をしていることからミスミソウ(三角草)の和名を持ちます。
日本に自生する雪割草の仲間は、主に西日本に分布するミスミソウ、日本海側のオオミスミソウ(大三角草)、関東以北の太平洋側のスハマソウ(洲浜草)などがあります。
いずれもヨーロッパ原産のミスミソウの変種と分類され、まとめて「雪割草」と呼ばれます。学名はHepatica nobilis(ヘパティカ・ノビリス)。属名のヘパティカはラテン語の「hepaticus(肝臓)」に由来し、3つに分かれた葉の形が肝臓を連想させることから。そのため中世ヨーロッパでは、肝臓の病気に効くと信じられ、薬草として用いられました。英名のレバーリーフ(liverleaf)も「肝臓の葉」を意味します。
ちなみに、植物の和名はカタカナで表記されますが、雪割草の場合は漢字表記。サクラソウ科サクラソウ属の一つに、「ユキワリソウ」の和名を持つ別の植物があるためです。「雪割草」と漢字で表記することで、標準和名ではないことと、サクラソウ科ではなくキンポウゲ科の“雪割草”であることを表します。
新潟県民が誇る「県の草花」
雪割草の仲間は、落葉樹林の林床や傾斜地の、風通しのよい明るい日陰で、適度に湿った場所を好んで生育します。雪解けとともに美しい花を開くため、「春の妖精」とも。
その中で、ミスミソウは「雪割草」の代表種としてよく知られ、草丈10~15㎝。根元から出る葉の葉身は長さ1.5~4.5 cm。革質で鈍い光沢がある葉には切れ込みが入って3つに裂け、それぞれの先端が尖ります。全体的に三角状となるこの形は、ミスミソウ属の仲間に共通する特徴です。
花期は2~4月。花茎の先端に径10~15mmの小さな花を一つ咲かせます。長卵形の花弁のように見えるものは、6~9枚の萼片(がくへん)で、花弁はありません。色は白あるいは淡い紫。晴天時には大きく花開き、曇天時は半開のままです。
ミスミソウは地域や個体によって変異が大きく、江戸時代から多くの品種が生み出されてきました。ミスミソウの変種で、葉も花も大型なのがオオミスミソウ。雪割草の中でもっとも丈夫で変異の幅も広く、また比較的簡単に栽培ができることから人気です。花径は20~30mmで、花弁状の咢片は6~20枚。色も白、淡紅、濃紫、藍色などとバリエーションが豊富です。葉の裂片の先端も鋭形、鈍形、円形と変異があります。
山形県以南の日本海側に分布し、特に佐渡島を含む新潟県は国内最大級の自生地として名高く、「県の草花」にも指定されています。一時期は、環境の変化や乱獲のため、絶滅も危惧されたといいます。しかし、多くの県民の保護活動によって自生数も回復。オオミスミソウ=雪割草は自然を愛し、行動する新潟県民のシンボルとなる草花です。
花言葉は「あなたを信じます」「期待」「和解」
雪割草の花言葉は、深い雪の下でも常緑の葉を保って春を待ち、やがて雪を割って小さな花を咲かせる姿に由来。信じて待ち続ける強さや、新しい季節に向かっての努力と希望を象徴しています。
1937(昭和12)年宮城県生まれの俳人、鈴木伊都子の作品に次の句があります。
イギリスの詩人パーシー・ビッシュ・シェリー(1792–1822年)は、詩の中で「冬来たりなば 春遠からじ」と詠いました。辛い時期を耐え抜けば、必ず幸せな春が訪れるというたとえです。ヨーロッパには、雪割草を袋に入れて持ち歩くと、恋人との絆が深くなるというロマンチックな言い伝えもあります。いつか来る「よきこと」を信じ、凍える寒さの中でも、やがて春が巡り来る日を待ち、たゆまず歩き続けたいと思います。
雪割草(ゆきわりそう)※ミスミソウ(三角草)のこと
学名: Hepatica nobilis
英名:China root
「雪割草」は園芸上の通称名。キンポウゲ科ミスミソウ属の常緑多年草の仲間を指し、葉が三角形をしていることから、和名はミスミソウ(三角草)。日本に自生する雪割草の仲間は、ミスミソウ、オオミスミソウ(大三角草)、スハマソウ(洲浜草)など。早春の雪解けとともに、花茎の先端に花を一つ咲かせる。花色は白、淡紅、青紫など多彩。

森乃おと
俳人
広島県福山市出身。野にある草花や歳時記をこよなく愛好する。好きな季節は、緑が育まれる青い梅雨。そして豊かに結実する秋。著書に『草の辞典』『七十二候のゆうるり歳時記手帖』。『絶滅生物図誌』では文章を担当。2020年3月に『たんぽぽの秘密』を刊行。(すべて雷鳥社刊)
