街角の花屋に、鮮やかな黄や純白のフリージアが並ぶ季節となりました。フリージアは、甘く爽やかな香りとエレガントな花姿で、春の喜びを告げます。純潔と友情を象徴する花として人々から愛され、優しく匂い立つように別れと出会いの日を寿いでくれるのです。
ビクトリア朝時代とフリージア
フリージアは、アヤメ科フリージア属の半耐寒性球根植物の総称。野生種は南アフリカのケープ地方を中心に、10数種が分布します。
一般的に流通しているのは、それら原種を交配して作出された園芸品種です。ヨーロッパに紹介されたのは18世紀後半ですが、人気が高まったのは英国・ビクトリア朝時代(1837~1901年)。清らかな香りが当時の嗜好に合い、温室園芸の発展とともに盛んに栽培されるようになりました。現在では150以上もの園芸種が生み出され、世界中で愛されています。
ヨーロッパでは春の代表的な花として親しまれ、特に英国では結婚7周年を祝うシンボルとしてフリージアが贈られます。日本においてもフリージアは特別な花であり、別れの季節に多く贈られます。
軽やかで親しみやすい、透明な香り
フリージアは温暖な気候を好み、寒さにはあまり強くありません。秋に芽を出して生育し、春に開花したあと、夏に地上部が枯れて球根の状態になって休眠します。開花期は3~4月。剣のように先が尖った30~80㎝の細長い葉を根際から数枚出し、葉の間から花茎を長く伸ばします。花茎は先端近くで弓なりに曲がり、径2~4㎝の漏斗(ろうと)状の花を上向きに連ねて咲かせます。花被片(かひへん)は6枚で、外側3枚の大きい花被が萼(がく)、小さめの内側3枚が花弁。色も形もよく似ていて、ほとんど区別ができません。花色は白や黄色のほか、園芸種では紅、紫、ピンク、オレンジなど多様です。
さてフリージアの最大の魅力は、華麗で優雅な花形もさることながら、何といってもその香りに尽きるでしょう。軽やかで親しみやすく、独特の透明感を持ちます。ある調査によると、好きな香りの花として「キンモクセイ(金木犀)」「ジンチョウゲ(沈丁花)」「バラ(薔薇)」に次いで「フリージア」の名が挙げられたそうです。
フリージアは色によって香りが異なり、原種に近い白や黄色が最も強く香ります。白い花はペッパーのようにスパイシーで、黄色は甘く爽やか。赤・紫系統の花は、甘酸っぱくほんのり香るとされています。
親友に捧げる南アフリカの花
代表的な原種で黄色い花を咲かすフリージアの学名はFreesia refracta(フリージア・レフラクタ)。属名のFreesiaは、フリージアを発見したデンマークの植物学者C. F. エクロン(1795~1868年)が、親友のドイツ人医師F. H. T.フレーゼ(Freese)に献名したことに由来します。ちなみに種小名のrefractaは「花序が急に曲がる」の意です。
フリージアが日本に導入されたのは1887 (明治20)年。江戸時代末期には渡来していたという説もあります。オランダから球根を輸入したのが最初とされ、和名は「アサギスイセン(浅黄水仙)」。葉がスイセン(水仙)に似ていて、当初流通していたフリージアが黄色い花だったことにちなみます。またハナショウブ(花菖蒲)とスイセンの両方に似ていることから「ショウブスイセン/アヤメスイセン(菖蒲水仙)」、花が甘い香りをもつことから「コウセツラン(香雪蘭)」の別名もあります。
花言葉は「純潔」「親愛の情」「希望」
フリージアの花言葉の「純潔」は、ウェディングの祝い花とて使われることが多いことから。「親愛の情」は、植物学者エクロンと医師フレーゼとの、温かな友情のエピソードから生まれました。「希望」は早春に咲き、春の訪れを告げてくれることからなのでしょう。
さて日本では「フリージアは黄色い花」という印象を持つ人が多いといわれます。私もまたそうなのですが、フリージアと聞けば思い浮かぶのが次の一句です。
作者の後藤夜半は高浜虚子に師事し、「ホトトギス」同人として活躍した、戦後の昭和俳句界を代表する俳人です。フリージアは卒業や入学など、新たな門出を祝福するにふさわしい花です。どの色のフリージアも優しく素敵ですが、とりわけ春の光のような黄色いフリージアは、旅立つ人へ贈られる清新な希望そのものなのかもしれません。
フリージア
学名: Freesia refracta
英名:Freesia
和名:アサギスイセン(浅黄水仙)
アヤメ科フリージア属の半耐寒性球根植物の総称で、南アフリカ原産。葉は剣状に先が尖り、30~80㎝。開花期は3~4月、径2~4㎝の漏斗(ろうと)状の花を上向きに連ねて咲かせる。花は芳香を放ち、色は白や黄色のほか、園芸種では紅、紫、ピンク、オレンジなど多様。

森乃おと
俳人
広島県福山市出身。野にある草花や歳時記をこよなく愛好する。好きな季節は、緑が育まれる青い梅雨。そして豊かに結実する秋。著書に『草の辞典』『七十二候のゆうるり歳時記手帖』。『絶滅生物図誌』では文章を担当。2020年3月に『たんぽぽの秘密』を刊行。(すべて雷鳥社刊)
