こんにちは、料理人の庄本彩美です。今日は「田楽味噌」についてのお話です。
子どもを連れて、友人と京都の神社のお祭りに行った。うだるように暑い日差しで、「神輿を担ぐ人たちは大変だろうな……」と思いながら鳥居をくぐると、社殿の方から涼しい風が駆け抜けていった。参道に沿って屋台が並び、子どもたちが遊び、神輿が来るのを待っている。「昔から変わらない感じが好きなんだよね」と友人。その心地よい熱気に、私たちはしばし暑さを忘れて楽しんだ。
帰り際、友人が「これ持っていき」と、手土産を袋に入れて持たせてくれた。袋を開けると、立派な「賀茂茄子」が入っていた。初物の賀茂茄子だ。
賀茂茄子を手にしたら、京都に暮らす者として、夏に一度はこれを作らずにはいられない。
私は冷蔵庫の奥から、以前に仕込んでおいた田楽味噌の容器を取り出した。みそ、みりん、砂糖を弱火でじっくり練り上げておけば、冷蔵庫で長持ちする万能調味料だ。
「いっちょ、やりますか」
私はまな板に、ずっしりと丸い賀茂茄子を置いた。
ツヤツヤでずんぐりとした球体は、まるで上等な漆器のように深く艶やかな濃紫色をしている。数ある京野菜の中でも、只者ではない存在感だ。
包丁を入れると、その力強い表の顔とは裏腹に、真っ白で目の詰まった美しい断面が現れた。贅沢に3センチほどの厚切りにして、皮目に格子状の隠し包丁を浅く入れる。火が芯まで通るように、そしてお味噌がよく絡むように、丁寧に調理する。
少し多めの油を引いて温めたフライパンに、賀茂茄子をそっと滑り込ませる。ジュワッ、と静かに油が弾ける。美しい紫色の皮目を守るように、ぐるりと油をなじませてコーティングする。断面を下に向けたらすぐに蓋を閉め、じっくりと蒸し焼きにしていく。
蓋の裏にしずくがつき、パチパチという音がこもって聞こえてきたら、蓋を開けるサイン。ひっくり返すと、断面にはきれいなきつね色の焼き目が現れた。再び蓋をして、さらに弱火で数分。お箸をそっと当て、中心まですうっと吸い込まれるように通れば、それが焼き上がりの合図。
お皿に盛り付け、温めておいた田楽味噌をぽってりとのせる。仕上げに、ぱらぱらと胡麻を振れば「賀茂茄子の田楽」の完成だ。
この「田楽味噌」は、平安時代、田植えの時期に五穀豊穣を願って田んぼの畔で太鼓に合わせて踊られた「田楽踊り」に由来するという。一本の棒に乗って白い衣装を翻して踊る法師の姿が、串に刺し、味噌を乗せて焼いた豆腐に似ていたことからその名がついたそうだ。
こってりとしたお味噌の香ばしさが湯気とともに立ち上る。お箸で崩しながら口に運べば、引き締まった果肉から、驚くほどジューシーな果汁がじゅわっと溢れ出し、水分を求める喉元をするりと通り抜けていく。
田楽味噌は濃厚な味わいだが、そのコクが、暑さに疲れていた胃にじわじわと染みわたり、身体の細胞が目を覚ますかのように、不思議と食欲が湧いてきた。
それはまるで、私のなかで喜びの踊りが賑やかに響き始めたかのようであった。
京都の夏は、とにかく暑い。けれど、私たちにはこの夏を軽快に乗りこなすための知恵と術(すべ)がたくさんある。外ではお祭りの熱気から健やかなエネルギーをもらい、家では大地の恵みが詰まったご飯をしっかり食べる。
どうせやってくる暑い夏ならば、楽しんで、美味しく味方につけてしまうのがいい。そんなことを胸に秘めながら、今年の夏の波も、ひらりと乗りこなしていきたい。

庄本彩美
料理家・「円卓」主宰
山口県出身、京都府在住。好きな季節は初夏。自分が生まれた季節なので。看護師の経験を経て、料理への関心を深める。京都で「料理から季節を感じて暮らす」をコンセプトに、お弁当作成やケータリング、味噌作りなど手しごとの会を行う。野菜の力を引き出すような料理を心がけています。
