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キンレンカ

旬のもの 2026.08.25

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こんにちは。俳人の森乃おとです。

大暑が過ぎるころ、庭先やハンギングバスケットに、キンレンカ(金蓮花)が燃えるような緋色や黄金色の花をこぼれるように咲かせはじめます。まばゆい光の中でひときわ鮮やかなその色は、真夏の庭に小さな灯をともしたようです。

葉の上で水滴が宝石のように転がる

キンレンカは、ノウゼンハレン科ノウゼンハレン属のつる性一年草です。原産地は南米ペルーを中心とするアンデス山脈一帯とされています。日本へは江戸時代に渡来し、当初は観賞用として親しまれました。

和名「金蓮花」は、丸い葉が水に浮くハス(蓮)のようで、花色が黄金を思わせることに由来します。別名の「凌霄葉蓮(のうぜんはれん)」も、花の形がノウゼンカズラ(凌霄花)に、葉がハスに似ていることから名付けられました。

葉にはハスと同じように水を弾く撥水(はっすい)性があり、雨が降ると水滴が宝石のように丸まって転がる様子は、いかにも清らかで魅力的です。そして水の珠は、葉の上の汚れを洗い流しながら、落ちていきます。
また、葉の裏側の中央付近に葉柄(ようへい)がつくため、葉全体がまるで小さな盾を掲げたように四方へ広がることも特徴です。

戦勝の「トロフィー」の名をもつ

茎はつる性で地を這うように伸び、あるいは支柱に絡みながら1~2mほどに広がります。直径3~7㎝ほどの葉は互生し、長い葉柄の先に円形の葉身をつけます。

開花期は5~11月、径3~5㎝ほどの5弁花を、長く伸びた花柄の先に一輪ずつ咲かせます。左右相称の花の後ろには、細長い漏斗状の「距(きょ)」が伸び、その奥に蜜をたたえています。花色は橙、黄、赤、アプリコットなど暖色系が中心で、品種によって八重咲きや、葉に斑の入るものもあります。

学名は Tropaeolum majus(トロパエオルム・マユス)。属名の「トロパエオルム」はギリシア語で戦勝の記念品「トロフィー」を、種小名「マユス」は「より大きい」を意味します。丸い葉を戦士の盾に、鮮やかな花を返り血に染まった兜や鎧に見立てたそうです。

ちなみに英名「Nasturtiumナスタチウム」は、本来オランダガラシ(クレソン)属を指す学名であり、キンレンカの葉や花が帯びる独特の辛味がクレソンに似ていたことから、通称として転用されたのだといわれます。

ピリッと辛くて風邪によく効く

さて、キンレンカは観賞用として楽しまれるだけの植物ではありません。食用・薬用ハーブとしても長い歴史を持っているのです。
葉や花を口にすると、ピリッとした辛味が舌先を刺します。正体はからし油配糖体という成分。独特の香りは、虫、とりわけアブラムシを遠ざけるといわれ、畑の傍らに植えてコンパニオンプランツとして利用されることもあります。

花にも葉にもビタミンCやミネラルが豊富に含まれ、若い実を酢漬けにすればケッパーの代用となり、花や葉はサラダの彩りやサンドイッチの材料としても重宝されてきました。古くは消毒や呼吸器の不調を和らげる民間薬としても用いられたともいいます。今日でも、葉を煎じたお茶は「風邪によく効く」として、飲まれています。

花言葉は「愛国心」「勝利」「困難に打ち克つ」

愛らしい花姿にもかかわらず、キンレンカには「愛国心」「勝利」「困難に打ち克つ」などの勇ましい花言葉がつけられています。学名に込められた戦勝の記憶が、時を超えてそのまま受け継がれているのでしょうか。
この花を愛した画家に、クロード・モネ(1840〜1926年)がいます。印象派を代表するフランスの画家で、晩年はジヴェルニーの庭にこもり、自ら設計した庭園や睡蓮の池を描き続けました。

ジヴェルニーの庭園では、小道の縁にキンレンカが植えられ、夏から秋にかけて茂った蔓が道をおおい、花のトンネルをつくったといいます。晩年、白内障に悩まされながらも光と色彩を追い求め続けた画家が、足もとに選んだのが、この燃えるような一年草でした。
戦勝の記念を秘めた学名、そして画家の庭を彩った来歴。そのどれを知らなくても、遠いアンデスの高地から海を渡ってきたキンレンカは、どこか屈託のない明るさで、人々の心に小さな灯をともし、今も風に揺れています。

キンレンカ(金蓮花)

学名:Tropaeolum majus
英名:Nasturtium

ノウゼンハレン科ノウゼンハレン属のつる性一年草。原産地は南米ペルーを中心とするアンデス山脈一帯。花期は5~11月、径3~5㎝ほどの5弁花を咲かす。花色は橙、黄、赤など。食用・薬用ハーブとしても利用される。

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森乃おと

俳人
広島県福山市出身。野にある草花や歳時記をこよなく愛好する。好きな季節は、緑が育まれる青い梅雨。そして豊かに結実する秋。著書に『草の辞典』『七十二候のゆうるり歳時記手帖』。『絶滅生物図誌』では文章を担当。2020年3月に『たんぽぽの秘密』を刊行。(すべて雷鳥社刊)

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