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カモミール

旬のもの 2025.05.17

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こんにちは。俳人の森乃おとです。

初夏を迎えた庭では、カモミールの可憐な白い花が風に揺れています。花からはフルーティーな香りが広がり、幸せな気持ちで満たされます。カモミールはヨーロッパでは「母の薬草」として古くから親しまれ、ハーブティーといえばカモミールティーを指すほどです。

神が与えた聖なるハーブ

カモミールはヨーロッパ~西アジア原産のキク科植物。紀元前4000年以前から薬草として利用されてきたことから、「世界最古のハーブ」ともいわれます。
バビロニアの遺跡には、カモミールの名が記された粘土板が残されており、古代エジプトでは太陽神ラーに捧げられていたとか。また、アングロサクソン人の神話では、薬草の神ウォドンがこの世に与えた9種の聖なるハーブの一つでもあります。

胃炎や不眠、冷え症など幅広い薬効を示す万能ハーブのため、ヨーロッパでは「緑の薬箱」と称されるほど。イギリスの童話『ピーター・ラビット』にも登場し、お母さんウサギが眠れない子ウサギのために、カモミールティーを煎じて飲ませます。

カモミールの最大の魅力は、何といっても果物を思わせる甘い香り。英名のchamomileも「大地のリンゴ」を意味するギリシャ語“chamaimelon(カマイメーロン)”が語源です。
さて、「カモミール」の名のつく植物にはいくつか種類があることをご存じでしょうか。いずれもキク科に属し、その中でもハーブや民間薬として用いられるのは、ジャーマン・カモミールとローマン・カモミールの2種類です。

どちらも「カモミール」と呼ばれ、古来愛され、花や葉の形状・香りもよく似ており、使用法や薬効がほぼ同じなのに、分類上は属の異なる別種なのです。

ジャーマン・カモミールは黄色い中心部が盛り上がる

単に「カモミール」というと、日本では通常ジャーマン・カモミールを指します。
ジャーマン種はキク科シカギク属の1〜2年草で、草丈30~60cm。葉は互生し羽状に細かく分裂します。花期は3~6月。茎の頂に直径2cm程度の頭花をつけます。花の構造は、他のキク科植物と同じ。中心部が鮮やかな黄色の管状花の集まりで、ぐるりと10~20枚ほどの白い舌状花が囲みます。

そしてジャーマン種の大きな特徴は、花が成熟するにつれて白い舌状花が垂れ下がり、中心の管状花が順次開花して円錐形に盛り上がること。花をつまむとフルーティーな香りがしますが、葉や茎に香りがないことが、ローマン種との違いです。

学名はMatricaria chamomilla(マトリカリア・カモミーラ)。属名の“Matricaria”は「子宮」を意味し、婦人病に薬効ありとされていたことによります。
日本には江戸時代末期に渡来し、和名はカミツレ(加密列)。オランダ語のkamille(カミッレ)が語源で、カミルレとも呼ばれます。当時の著名な本草学者・小野蘭山(おの・らんざん/1729~1810年)の『本草綱目啓蒙』(1803年)には、「カモメイリはカモメルラの訛(なまり)」との記載があります。

ローマン・カモミールは「香る芝生」

一方、ローマン・カモミールはキク科カマエメルム属の多年草。草丈は25㎝に満たないほどで、茎は立たず地面を這うようにして成長します。花期は5~6月。中心にある黄色い管状花を白い舌状花が囲むことは同じですが、ジャーマン種と比較して花はやや大きく、花数が少なめ。また、黄色い中心部はジャーマン種ほど盛り上がりません。

さらに、弱った植物と一緒に植えるとその植物が回復することから、「植物のお医者さん」の名も。学名はChamaemelum nobile(カマエメルム・ノビレ)。種小名の“”nobile”は、ラテン語の「高貴な」を意味します。

ローマン種の最大の特徴は、花はもちろん茎や葉など全草に強い香りがあること。踏むと芳香が立ちのぼるため、床などに「まき散らす薬草=ストローイング・ハーブ」として活用されてきました。

中世ヨーロッパでは、修道院や城の庭園装飾として広く栽培され、イギリスのエリザベス朝(1558~1603年)では、歩くと香る「カモミールの芝生」が流行したそうです。
ちなみにローマン・カモミールティーはジャーマンよりもやや苦め。日本ではジャーマンの方が好まれますが、イギリスではローマンが一般的です。かのピーター・ラビットが飲むお母さんのカモミールティーは、ローマン・カモミールを煎じたものだったことでしょう。

カモミールの苗床のごとく、踏まれるたびに成長せよ――ギリシャの言い伝えより

カモミールの花言葉は、「あなたを癒す」「逆境に耐える」「苦難の中で生まれる力」。
カモミールには、安らかな眠りを促し、心身をリラックスさせる薬効があるとされ、「あなたを癒す」の花言葉は、そこから生まれました。

また、「逆境に耐える」「苦難の中で生まれる力」は、踏みつけられても負けることなく伸びていくたくましい生命力から。
上掲のギリシャの諺と並び、W・シェイクスピア(1564~1616年)の『ヘンリー四世』には、「カモミールは踏まれれば踏まれるほど良く育つ」という有名な台詞があります。可憐な見た目にも関わらず、近くにいるものを癒しながら強く生きていくカモミールの姿は、現在も変わらず、人々を励まし続けてくれます。

カモミール

学名:Matricaria chamomilla/Chamaemelum nobile
分類:キク科シカギク属/キク科カマエメルム属

カモミールとよばれる植物には多くの種類があるが、ハーブや民間薬として用いられるのは、ジャーマン・カモミールとローマン・カモミールの2種類。ジャーマン種はキク科シカギク属の1〜2年草で、草丈30~60cm。花期は3~6月で、中心部の管状花の集まりが突起状に盛り上がる。ローマン種はキク科カマエメルム属の多年草で、草丈25㎝ほど。地を這い、花期は5~6月。全草から芳香を放つ。

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森乃おと

俳人
広島県福山市出身。野にある草花や歳時記をこよなく愛好する。好きな季節は、緑が育まれる青い梅雨。そして豊かに結実する秋。著書に『草の辞典』『七十二候のゆうるり歳時記手帖』。『絶滅生物図誌』では文章を担当。2020年3月に『たんぽぽの秘密』を刊行。(すべて雷鳥社刊)

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