二十四節気は「白露」を迎え、少しずつ秋の気配を感じるようになりました。雲の輪郭もぼんやりと曖昧になっていき、植物も息を吹き返したようにキラキラと輝いていく。「白露」らしい、潤いに満ちた時季です。
ただ身体には、まだ夏の疲れが残っています。
夏の間に冷たいものを多く食べたり、冷房に当たりすぎたりして、弱った胃腸を整えたいところです。そんなときに我が家で活躍しているのが「鉄瓶」です。
鉄瓶とはお湯を沸かすための鋳鉄製の道具。厚手で熱を蓄えてくれるので、あたたかい飲み物をたのしむのにぴったりです。また、鉄瓶で沸かしたお湯は口当たりがやわらかく、まろやかになるとも言われています。鉄瓶の状態や水質によって違いがあるようですが、鉄瓶で沸かしたお湯を飲むと、いつものお湯よりも身体にすっと沁み渡っていくような感覚があります。
朝起きたらすぐに鉄瓶で白湯をつくることが日課になっています。
沸騰したら鉄瓶が出す「シュー」という小さな音がとても心地いいんです。沸騰するにつれて起こる微かな振動が、静かに聞こえてくる。それはまるで水琴窟のように、どこか遠いところで響き渡っているかのようなやさしい音です。「沸いたよ」という合図のようで、使うたびに愛着が湧いてきます。
そもそも鉄瓶は、茶の湯の道具から発展し、広まっていったと言われています。茶の湯ではもともと「手取釜(てどりがま)」といって、三つ足がついた釜に注ぎ口と弦がついている道具が使われていました。それが時代とともに変化し、より手軽にお湯を沸かしてお茶をたのしむ道具として鉄瓶が使われるようになったと言われています。
なかでもよく知られているのが、東北地方の南部鉄器の鉄瓶です。南部鉄器は経済産業省の伝統工芸品に指定されていて、高温で溶かした鉄を型に流し込む方法で作られています。いろいろな紋様が施されているのが特徴で、とくに小さな粒が規則的に並ぶ「霰(あられ)紋様」が代表的です。この紋様は、空から降るあられを表現しているそうで、細かな凹凸が立体感や重厚感を生み出していて、美しい手仕事だと惚れ惚れします。
また、鉄瓶を長く使うなかで分かってきたのは、お手入れがそんなに難しくないということです。使い終わったらお湯を捨てて水分を飛ばすのですが、水分が残ったまま放置してしまい、赤サビができてしまったこともあります。そのときは焦ってタワシでこすって赤サビを取ったのですが、何回かお湯を沸かしたら透明な色になりました。そんな手間暇も含めて、鉄瓶とともに暮らしている感じが好きなのです。
鉄瓶とともに身体を整えながら、秋の訪れを穏やかな気持ちで迎えたいと思います。
※参考
下中 弘 『世界大百科事典』平凡社( 1997年)
日野 明子『台所道具を一生ものにする手入れ術』誠文堂新光社(2014年)

高根恭子
うつわ屋店主
神奈川県出身、2019年に奈良市へ移住。
好きな季節は、春。梅や桜が咲いて外を散歩するのが楽しくなることと、誕生日が3月なので、毎年春を迎えることがうれしくて待ち遠しいです。奈良県生駒市高山町で「暮らしとうつわのお店 草々」をやっています。好きなものは、うつわ集め、あんこ(特に豆大福!)です。畑で野菜を育てています。
