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栗ご飯

旬のもの 2026.09.15

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こんにちは、料理人の庄本彩美です。今日は「栗ご飯」についてのお話です。

私にとって、栗ご飯は特別な存在だ。手間暇をかけて、ひとつひとつの工程と丁寧に関わるもの。栗の季節が来たら、どうしても作りたくなってしまう。そんな、切っても切れない縁を感じるほどの料理だった。

それが、子どもが産まれた途端、作れなくなってしまった。子どもの小さな仕草に目を細め、日々の育児に追われるうちに、季節はただ慌ただしく通り過ぎていく。今の私にとっては、この子との時間が最優先。これまで楽しいと思えていた料理や手しごとから遠ざかって、数年が経っていた。

そんな矢先、近所の小さなお餅屋さんの店先に、栗おこわののぼりがはためいているのを見かけた。ベビーカーを押す手を止めて立ち止まる。
今までは「栗の季節が来た! うちも栗を迎えなきゃ」と八百屋に急いだのに、「あぁ、もうそんな時期か」とぼんやり眺める自分がいる。どこか遠くから秋を眺めているようだった。
「こんなに栗の存在って遠かったっけ」
「今年も栗ごはんを作る時間なんて…」と言いかけて、止まった。
気がつけば、「忙しい、忙しい」と、いつの間にかそれが口癖になっていた。そんな自分にちょっぴり嫌気がさした。

あれもやらなきゃ、これもしなきゃ、なんて楽しくない。
「やめよう。『忙しい』なんて言葉」
そう思ったら、なんだか少し、ふっと力が抜けた気がした。
馴染みの八百屋に向かうと、そんな私を知ってか知らずか、初ものの栗が並んでこちらを見ている。
「今年の秋は、栗ご飯を作ろう」

子どもが寝たタイミングを見計らって、私は栗の袋を取り出した。私の推し栗は「ぽろたん栗」。鬼皮も渋皮もむきやすくて、料理がしやすいお気に入りの品種だ。
鬼皮に包丁で切れ目を入れていくのが楽しい。「やり始めたら、意外と大変でもないんだよなあ」とつくづく思う。
オーブンで焼いて皮をむいたら、あとはお米と一緒に炊飯するだけ。鍋から湯気が立ちのぼり、ほのかに栗とお酒の香りが漂う。「子どもは栗、食べてくれるかな?」なんて考えながら、出来上がりを待つ。

立ち上る湯気とは逆に、身体の中の浮き足立っていたような感覚がふぅーっと落ちていく。世界が明るくなり、視野が広がったような気がした。
バタバタと慌ただしい毎日だけれど、少し手をかけて料理ができる幸せを感じられたひとときだった。
私にとって、栗ご飯を炊くことは、自分自身の心と暮らしの「余白のバロメーター」だったのかもしれない。

だからこそ今年は、少し違う気持ちでこの秋を迎えてみたい。
自分で意識して、小さな「余白」をしつらえてみる。その余白の中で、自分の手で栗ご飯を炊き、コツコツと包丁を入れる音を聴く。お米と一緒にゆっくりと炊き上がっていく、ふくよかな秋の香りに包まれる。
それは誰かのためだけではなく、慌ただしい日常のなかに自分の心を取り戻すための、いとおしい時間だ。

もっと気軽に、力を抜いて。湯気の向こうに広がるあたたかな食卓を、今年はただただ楽しんでみたいと思う。

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庄本彩美

料理家・「円卓」主宰
山口県出身、京都府在住。好きな季節は初夏。自分が生まれた季節なので。看護師の経験を経て、料理への関心を深める。京都で「料理から季節を感じて暮らす」をコンセプトに、お弁当作成やケータリング、味噌作りなど手しごとの会を行う。野菜の力を引き出すような料理を心がけています。

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