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ホトトギス

旬のもの 2026.09.17

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こんにちは。俳人の森乃おとです。

晩夏に入って陽ざしが翳(かげ)りはじめ、空気にひと筋の涼が混じる頃、ひっそりと小さなユリのような花を咲かせるのがホトトギス(杜鵑草)です。花に散る個性的な紫の斑点が、名鳥ホトトギスの胸の模様を思わせることが和名の由来。漢字表記にある「草」は発音しません。風情ある草姿を好まれ、秋の茶花としても重んじられてきました。

英名は「ヒキガエルのようなユリ」

ホトトギスは、ユリ科ホトトギス属の多年草です。日本固有種で、関東地方から四国、九州にかけて分布。山地のやや湿った林の下や林縁、谷沿いの崖や斜面などの半日陰に生育します。

ホトトギス属の仲間は東アジアを中心に20種ほどが知られ、そのうち半数ほどが日本に自生します。斑点のない白花のシロホトトギス、黄色い花を釣鐘のように垂らすジョウロウホトトギスの仲間など、地域ごとに個性豊かな変種・近縁種があります。

学名はTricyrtis hirta(トリキルティス・ヒルタ)。属名のトリキルティスは、ギリシャ語で「3」を意味するtreisと「曲がった」のkyrtosの合成語。外側3枚の花被片の基部が、袋のように膨らんでいることに由来します。種小名のヒルタは「短い剛毛のある」を表します。英名はToad lily(トード・リリー)。トードとは「ひきがえる」のことで、西洋では、特徴的なまだら模様からヒキガエルを連想したようです。

プロペラのように広がる花柱(かちゅう)

草丈は40~80㎝、日陰の崖地などでは垂れ下がります。茎には褐色の毛が密に生え、長楕円形の長さ8〜20㎝の葉は互生します。ホトトギスの別名のユテンソウ(油点草)は、若い葉に油の染みのような斑点が浮かぶことにちなみます。

花期は8月下旬~10月。葉の腋に、径2〜3㎝ほどの花が上を向いて開きます。花弁のように見えるものは6枚の花被片(かひへん)。外側の花被片が萼(がく)、内側の花被片が花弁にあたります。ちなみに花被片とは、花弁と萼がよく似ていて、区別が難しいときにまとめて呼ぶ植物用語。ユリ科の仲間の多くに共通する特徴です。ホトトギスの花被片には白地に紫色の特徴的な斑点があり、下部には黄色の斑が入ります。

雌しべが長く伸び、太い花柱(かちゅう)の先が3つに分かれて、ヘリコプターのプロペラのように広がった形状をしていることも特徴の一つ。その先端はさらに2裂して垂れ下がります。
一輪の花が開いているのは4日間ほどですが、次々と蕾をあげて開いていくため、株全体では晩夏から晩秋まで、ひと月以上も咲き続けます。

声を持たぬ秋の「ホトトギス」

カッコウ科のホトトギスは、「鳴いて血を吐く」と形容されるほど激しく囀ります。初夏を告げる鳥として万葉の昔から日本人に愛され続け、明治時代の俳人正岡子規の「子規」という号も、この鳥にちなんだもの。肺病で喀血した自身を、ホトトギスに重ねたのだそうです。

格調高い鳥の名を与えられた植物は、声を持たず静かに花開き、秋の訪れを知らせます。花の美しさから改良種も数多く生まれ、茶花や生け花などに用いられ、古来親しまれてきました。

花言葉は「永遠にあなたのもの」

花言葉「永遠にあなたのもの」の由来は、晩夏から晩秋まで、ひたむきに咲き続ける花期の長さにあるといわれます。ほかに「秘めた意志」「永遠の若さ」などがあります。

夜をこめて 咲きてむらさき 時鳥草(ほととぎす)――後藤比奈夫(ごとう・ひなお/1917~2020)

後藤比奈夫の父は「ホトトギス」の俳人・後藤夜半(やはん)。自身も物理学に学んだ知的な目で花鳥諷詠を貫いて、103歳まで句を作り続けました。
「夜をこめて」は、夜のうちから、夜を通して、の意。誰も見ていない闇のなかで花は開き、朝の光が届いたときには、もう紫の斑を宿した花がそこに咲いている。夜明け前の昏さの中からホトトギスの紫が立ちのぼってくるようです。

ホトトギス(杜鵑草)

学名:Tricyrtis hirta
英名: Toad lily

ユリ科ホトトギス属の多年草。関東地方から四国、九州にかけて分布する日本固有種。山地の日陰のやや湿った斜面や崖に自生。草丈40〜80㎝。花期は8~10月。葉腋に径2~3㎝の花が上向きに咲き、6枚の花被片に紫色の斑点がある。別名ユテンソウ(油点草)。

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森乃おと

俳人
広島県福山市出身。野にある草花や歳時記をこよなく愛好する。好きな季節は、緑が育まれる青い梅雨。そして豊かに結実する秋。著書に『草の辞典』『七十二候のゆうるり歳時記手帖』。『絶滅生物図誌』では文章を担当。2020年3月に『たんぽぽの秘密』を刊行。(すべて雷鳥社刊)

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