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コウシンバラ

旬のもの 2026.09.27

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こんにちは。俳人の森乃おとです。

盛夏を過ぎて秋風が立つ頃になっても、絶えることなく紅の花を開き続けるのが、コウシンバラ(庚申薔薇)です。古来、中国の宮廷文化や文人趣味の中で愛でられてきた園芸バラですが、現代の豪奢な西洋バラを見慣れた目には、日本の野に咲くノイバラやテリハノイバラのように、素朴に映るかもしれません。

庚申の日のように繰り返し咲く

コウシンバラは、バラ科バラ属の常緑低木で、中国四川省・雲南省を中心とする温暖な地域が原産です。唐代(618~907年)にはすでに栽培されていたとされ、日本へは平安時代に観賞用として渡来。当初は「唐薔薇(からばら)」とも呼ばれました。

多くのバラが一季咲きであるのに対し、コウシンバラは春から秋にかけて、幾度も花をつける四季咲き性です。和名の漢字表記「庚申(こうしん)」は、干支(えと)のひとつで60日に一度巡ってくる「庚申(かのえさる)の日」に由来。花がそれくらい繰り返し咲き続けるという意味で名付けられました。

学名のRosa chinensis(ロサ・キネンシス)は「中国のバラ」の意です。四季を通じて咲くことから、中国名は「長春花(ちょうしゅんか)」あるいは「月季花(げっきか)」。蕾や咲きかけの花は、伝統的な中国漢方薬として用いられます。

控えめで上品な「ティー」の香り

樹高は1~2mほどで、互生する葉は、3~5枚の小葉(しょうよう)が羽のように並ぶ羽状複葉(うじょうふくよう)。小葉は長さ3~5㎝の長楕円形で、縁にギザギザとした鋸歯(きょし)があります。枝や葉柄には三角状の鋭いトゲを持ちますが、西洋バラと比べると少なめです。

花期は5~11月、径3~5㎝の花を枝先に一輪から数輪咲かせます。基本種は、淡紅から紅紫までの5弁花ですが、品種によっては八重咲きもあり、花色も白や黄色などさまざま。花弁の基部はいずれも白色で、雌しべは乳白色で離生します。
コウシンバラには、西洋バラのような強く甘い芳香がありませんが、草や菫を思わせるような、控えめで上品な香りをもちます。この香りは「ティー」の名で呼ばれています。

東洋の「母なるバラ」

さてバラといえば、最もヨーロッパ的で華やかなイメージに溢れた園芸植物。しかしその起点は18世紀末、コウシンバラの栽培品種がヨーロッパへ渡ったことにあります。当時の西洋バラは、初夏に一度だけ咲くものでした。コウシンバラの絶えず咲き続ける性質は、ヨーロッパの育種家たちに驚きをもって迎えられ、バラの世界に一大変革をもたらしたのです。

コウシンバラは、別の中国原産のバラであるロサ・ギガンテアなどと交配されてティーローズを生み、さらに交配が重ねられて、四季咲き性を受け継ぐハイブリッド・ティー系統が確立されました。ティーローズという名は、コウシンバラゆずりの香りが茶葉に似ていたことに由来するといわれます。

この系統が現代バラ=モダンローズの主流です。今日花屋に並ぶ西洋バラの多くは、遠くコウシンバラの血を引いています。東洋のコウシンバラこそ、西洋バラの繁栄を生んだ「母なるバラ」ともいえましょう。

花言葉は「幸福」

コウシンバラの花言葉は「幸福」。その清楚で可憐な花姿と長く咲き続ける性質から、生まれたのでしょうか。

わが庭に 庚申ばらの 花一つ 開きて秋の 空は曇りぬ――三ヶ島葭子(みかじま・よしこ/1886~1927年)

秋も深まる庭に、最後の一輪だけが残っている。その花が開いた瞬間、空はふと曇る――。喜びであるはずの開花が、翳りとともに描かれた一首です。
作者の三ヶ島葭子は、叙情的な歌風を与謝野晶子らに高く評価された歌人でした。病や不本意な結婚生活など不遇な境遇の中で6000首を超える歌を詠み、40歳の若さで世を去っています。
「幸福」という花言葉を負いながら、一輪だけ咲いて曇天に消えていくコウシンバラには、哀切でありながらも透き通った覚悟のようなものが漂っています。

コウシンバラ(庚申薔薇)

学名:Rosa chinensis
英名:China rose

バラ科バラ属の常緑低木。中国四川省・雲南省を中心とする温暖な地域が原産。日本へは平安時代に渡来。四季咲き性で、花期は5~11月、径3~5㎝の淡紅から紅紫の5弁花を枝先に咲かせる。18世紀末にヨーロッパへ渡り、多くのモダンローズの祖となった。

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森乃おと

俳人
広島県福山市出身。野にある草花や歳時記をこよなく愛好する。好きな季節は、緑が育まれる青い梅雨。そして豊かに結実する秋。著書に『草の辞典』『七十二候のゆうるり歳時記手帖』。『絶滅生物図誌』では文章を担当。2020年3月に『たんぽぽの秘密』を刊行。(すべて雷鳥社刊)

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