人徳のある人は何も言わなくても自然に慕われ、人々が集まってくるという意味です。
この言葉の起源はかなり古く、前漢時代、司馬遷の『史記』に描かれた李広将軍の人柄を伝えたもので、「桃李成蹊(とうりせいけい)」という熟語になって知られています。
桃や李(すもも)は何もいわずにただ静かに咲いているが、その美しい花や香りに誘われて、その木の下には自然に人が通い、小径ができる。人徳のある人は何も言わなくても自然に慕われ、人々が集まってくるという意味です。
実際に李広将軍に会って話したという司馬遷によると、李広将軍は本当に口数が少なく、話も下手だったそうですが、とにかく清廉な人柄で、休憩のときは自分より先に兵士たちに水を飲ませ、全員が食事を始めるまで食事をせず、自由なスタイルで休ませたり、自分の恩賞を部下に分け与えるなど、多くの逸話が残っています。
その結果、部下になりたがる兵士が多く、民衆にも広く慕われて圧倒的な人気があったそうで、亡くなった時は会ったこともない人々までが、その死を悼んだとされています。
口下手でも人柄というものははっきりと伝わるもの。調子のいい人よりも、言葉に嘘のない朴訥な人の方が、結果的には信頼されたりします。静かに咲いている花たちのように、誰に見せるともなく、心の花を咲かせていきましょう。
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俳優の松坂桃李さんのお名前は「桃李成蹊」の「誰からも慕われるように」というお父様の願いと、「桜梅桃李」の「自分らしく生きられるように」というお母様の願いからつけられたそうです。
文責・高月美樹