初夏の木々は日々、盛り上がるように勢いよく葉を広げ、鳥たちを上手に隠しています。
目に鮮やかな初夏の青葉たち。わが家ではアオゲラが元気よく、「ココココココ」と、木をたたく音が聴こえてきます。アオゲラのドラミングは求愛や縄張り宣言のためで、さえずりと同じ意味合いがあるのだとか。どこにいるのかと見上げてみても木々の葉が深く繁って、なかなか姿は見えません。
この大きく広がる木の枝を翠蓋(すいがい)と呼ぶ美しい言葉があります。文字通り、翠(みどり)の天蓋ですね。初夏の木々は日々、盛り上がるように勢いよく葉を広げ、鳥たちを上手に隠しています。
暁涼暮涼樹如蓋
千山濃緑生雲外
暁や暮れは涼しく、樹木は蓋の如し、千山の濃緑雲外に生ず。これは唐代中期の詩人、李賀が旧暦四月(現在の5月)、初夏を謳った詩の一節です。
5月は一日の寒暖の差が激しく、朝晩は肌寒いけれど、日盛りとなれば、木陰が有り難く感じる。今はまさにそんな季節です。朝は上着が必要ですが、日中は半袖に着替えたくなるほど暑くなりますよね。
2行目の意味は、見渡す限りの山々は一層、緑を濃くし、空の彼方に白い雲が生じている。初夏の風景が浮かんできます。
この詩を下敷きにした禅語が「千山添翠色」で、初夏の茶掛によく用いられています。唐の時代は詩人の言葉が禅に影響を与え、禅の言葉が詩人に影響を与えることもありました。
「翠(みどり)」は春の若草色とは異なり、夏の深い緑をさす言葉です。翠蓋は屋根のように広がる枝、翠雨(すいう)は青葉に降りかかる雨、翠苔(すいたい)は青々としたコケ。さまざまな夏の翠を楽しみましょう。
文責・高月美樹