こんにちは。気象予報士の今井明子です。
周期的に雨が降り、気温が高くなったり低くなったりと変化の激しい今日このごろ。
「ひと雨ごとに暖かくなる」という言葉がぴったりの季節です。
この時期に起こる現象といえば、俳句の季語にもなっている「春雷(しゅんらい)」。
雷といえば真夏のイメージが強いかもしれませんが、この季節にも雷は鳴ることがあります。文字通り、春の訪れを伝えてくれる雷です。
春雷は、夏の雷とは成り立ちが違います。
夕立をもたらす夏の雷は、じりじりと照り付ける太陽によって地面が暖められて、発生することが多いです。地面によって温められた空気は強い上昇気流となり、対流圏と成層圏の境目にまで達します。すると背の高い積乱雲(かみなり雲)ができ、雷が発生するのです。
これに対して、春雷は寒冷前線に伴って発生します。
冬の寒気をもたらすシベリア高気圧の勢力が弱まると、偏西風に乗って移動性の高気圧と低気圧が交互に西から東へと訪れるようになります。この低気圧は暖かい空気と冷たい空気の境目を示す、前線を伴うことが多いです。
前線には温暖前線と寒冷前線があります。冷たい空気の上を暖かい空気がゆるゆると昇っていくのが温暖前線で、温かい空気の下に冷たい空気が潜り込むのが寒冷前線です。
寒冷前線付近では、冷たい空気に潜り込まれた暖かい空気が急に上昇するので、やはり積乱雲が発生します。そして、その積乱雲から春雷が発生するというわけです。
さて、春雷には「ひょう」が降りやすいという特徴もあります。
ひょうというのは、直径5mm以上の氷の粒のことをいいます。積乱雲というのはとても背が高いので、雲の頂上あたりの気温は夏でも-40℃近くになり、小さな水と氷が存在しています。そして、氷の粒は水の粒をまわりにくっつけて成長すると、「あられ」になります。
通常は、あられはある程度大きくなるとその重みで地上に向かって落ちるのですが、積乱雲の中には強い上昇気流があるため、なかなか地上に落ちません。
こうして空中に長くあられがとどまることで、さらに大きく成長します。そして直径5mm以上になると「ひょう」と名前を変えます。いよいよ上昇気流で浮かんでいられなくなると、ようやく落下するのです。
それでも、夏ならひょうは落下している途中に溶けて雨になることがほとんどです。しかし、春先はまだ気温が低いため、ひょうは溶け切らずに地上まで落ちてしまうのです。
ひょうは大きいものだとみかんやソフトボールのような大きさになることもあります。もし体にぶつかったら大変ですよね。
そこまで大きくなくても、農作物の葉などに穴をあけたり、ビニールハウスを突き破ったりするため、農家にとっては深刻な被害をもたらします。
春を告げる「春雷」。
季語ということもあって語感はとても風情がありますが、実を言うとなかなか悩ましい現象なのですね。
今井明子
サイエンスライター・気象予報士
兵庫県出身、神奈川県在住。好きな季節はアウトドア・行楽シーズンまっさかりの初夏。大学時代はフィギュアスケート部に所属。鯉のいる池やレトロ建築をめぐって旅行・散歩するのが好き。
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