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土用の行事食

暦とならわし 2025.07.18

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七月も半ばを過ぎると、スーパーなどの店先で「土用」という文字が目立ってきたり、ニュースで耳にしたりする機会も増えてきます。

「土用の丑の日に鰻を食べる」という風習は全国的によく知られていますが、そもそも土用とはどのような日なのでしょう。

歌川広重の『浄瑠璃町繁華の図』(1852)に描かれた鰻の蒲焼きの店。(国立国会図書館デジタルコレクションより)

暑さ厳しい「夏の土用」

「土用」とは、もともと中国の五行思想に基づく暦の概念です。五行思想とは、木・火・土・金・水の五つの要素で自然界を説明しようという考え方で、四季のそれぞれに、春は「木」、夏は「火」、秋は「金」、冬は「水」をあてはめ、それらが移り変わる合間に「土」を割り当てました。つまり、季節の境目に巡ってくるのが「土用」というわけです。

一年には4回の土用があることになりますが、よく知られているのが「夏の土用」でしょう。暦では立秋の前の18日間のことを指します。季節の巡りの中でも、最も暑さが厳しく、暑気のため食欲が落ち、体調も崩しやすい時期ということから、特に重視されてきたようです。

2025年は、7月19日から8月6日が夏の土用の期間で、そのうち「土用の丑の日」は、一の丑・7月19日、二の丑・7月31日。2度の丑の日が巡ってきます。

炭火で焼いた鰻の蒲焼きは、芳ばしい香りが食欲をそそります。

例年になく梅雨明けが早かった西日本は、すでに猛烈な暑さに見舞われていますね。

現代ほどの暑さではなかったかもしれませんが、江戸時代の人々にとってもこの時期の暑さは厳しく、身体に堪えたのでしょう。

江戸時代後期の風俗を記した『東都歳時記』(1838)には、土用のころに町の銭湯や風呂屋で、あせもに効く桃葉の薬湯を焚いたり、お寺で暑さに負けないようお灸を焚く法会が行われたりするなど、暑気にあたらず元気に過ごせるよう、いろいろな催しが行われた様子が記されています。

鰻丼や蒲焼きだけでなく、ひつまぶしや鰻巻きなどいろいろな鰻料理を愉しみましょう。

暑い夏を行事食で健やかに

猛暑に負けないよう、人々は古くから「食べること」で夏を乗り切ろうと、対抗策を練ってきました。

最も代表的なものが、土用の丑の日に鰻を食べる風習です。これは江戸時代中頃から江戸の町で広まった習慣。外食文化が盛んな江戸で、鰻屋の販売促進として蘭学者の平賀源内が考案したという説が根強いですが、春木屋善兵衛が元祖であるという説など諸説あり、由来は定かではありません。

ビタミンが豊富で、鉄分、カルシウムなども含まれる鰻は、夏バテで疲れた身体にはぴったりの滋養強壮食材です。その栄養価の高さとおいしさも相まって、その後の大流行につながったのでしょう。

ただ、天然の鰻が本当においしくなるのは寒い季節。脂がのって、鰻本来のおいしさが味わえる冬にも、ぜひ味わってもらいたいです。

小豆餡をまとった土用餅、無病息災を願っていただきます。

そのほかにも、例えば、土用の入りの日に餅つきをしていただく「土用餅」の風習が古くから伝わっています。暑い夏を健康に乗り越えられるよう、無病息災を願って、小豆を使ったあんころ餅をいただくというものです。関西や北陸などを中心に、全国的に見られます。

島根県など、ところによっては、「土用しじみ」という風習も。しじみは夏の土用のころが産卵期の前でぷりぷりと身が太り、おいしい季節を迎えます。夏バテしやすいときだからこそ、タウリンの豊富なしじみは肝臓の働きを助けてくれて、疲労回復にも効果的です。

どの行事食にも、猛暑の日々を元気に過ごしたい!という日本人の気持ちがあらわれています。連日の暑さで皆さんヘトヘトだと思いますが、そんな時こそ、元気の出る行事食をいただいて、イキイキとした毎日を過ごしたいですね。

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清絢

食文化研究家
大阪府生まれ。新緑のまぶしい春から初夏、めったに降らない雪の日も好きです。季節が変わる匂いにワクワクします。著書は『日本を味わう366日の旬のもの図鑑』(淡交社)、『和食手帖』『ふるさとの食べもの』(ともに共著、思文閣出版)など。

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