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土用しじみ

旬のもの 2022.07.22

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こんにちは、料理人の庄本彩美です。今年の土用の丑の日は何を食べますか?今回は土用しじみのお話です。

小さい頃は「土用」を土曜日の「どよう」だと思っていた上に、日本独自のもので年に4回もあるとは、知りもしなかった。

土用とは、中国の陰陽五行説に由来し、季節の移り変わりをより適切に掴むために生まれた雑節の一つである。立春、立夏、立秋、立冬の前18日間のことを指す。
土用には様々な禁忌や風習がある。実家では、祖母が手前味噌を概ね年中仕込んでいるのだが、その間は避けて作っている。

土用の風習で有名なのは、やはり「土用の丑の日のうなぎ」だろう。
社会人になりたての頃、近所に卸売の魚屋があった。普段は閉まっているが、土用が近づくとうなぎのチラシが店前に貼られていて、私は買うか買うまいか、毎日悩みながら通っていた。何せチラシのみで、値段が書かれていない。鮮魚店ではないので、値段感も分からない。しかし、そのレトロな店構えに、きっと美味しいうなぎを売っているに違いない…と私は確信していた。

販売日に意を決して店へ向かい、常連さん達の後ろにコソコソと並んだ。お店のおばちゃんに「うなぎひとつ下さい!」と頼み財布を開いたところ、数百円足りずに私はみるみる青ざめてしまった。あたふたしていると、おばちゃんはふふっと笑いながら「また買いに来てくれたらいいからね」と手渡してくれた。
夜勤終わりに食べたあのうなぎは、本当に美味しかった。

毎年土用の日にうなぎを食べていたかといえば、そうではない。20代の若者にとっては、贅沢品であった。土用の丑の日には、他にも食べると良いといわれるものがいくつかあるが、ある年「しじみ」も土用に食べる習慣があることを知った。

島根へ嫁いだ友人から、ある日小包が届いた。深い海のような青色の釉薬の器や、出雲そばなどと一緒に「しじみ」が入っていた。「島根は宍道湖っていう大きな湖があって、そこのしじみが美味しいから送るね!」と事前に情報をもらっていたのだが、その大きさに驚いた。殻の厚みが1.5センチ程度はある。

しじみといえばあさりよりも小さく、箸で食べるにも口の中で取り出すにも、大変手間のかかるイメージ。汁だけいただくという選択肢もあるが、結局途中で身を食べるのを諦めてしまうのが心残りで、極力買わない食材であった。
しかし、このしじみは食べやすく食べ応えもありそうだ。同封された手紙には「土用の丑の日にしじみも食べると良いんだって」と書かれていた。

しじみの旬は、夏と冬の2回あるという。夏の「土用しじみ」は産卵前で身が太っており、ぷりぷりとした食感が楽しい。冬の「寒しじみ」は土に潜って栄養を蓄えるため、コクのある味が楽しめるそうだ。

「土用の丑の日にしじみ」と話題になり始めたのはここ最近のことらしいが、暑い夏の時期にしじみを食べる習慣は、もっと前からあったようだ。「土用しじみは腹薬」「土用の前のしじみは美味い」と言われ、土用にうなぎを食べ始めた江戸時代より前から食べられていたという。
しじみは胃腸を整え、夏バテ予防にも良いとされているそうだ。

スーパーでは小さめのしじみを見かけることが多いが、専門の魚屋や、百貨店には大きいものが置いてあることもあり、さらに今はネットで取り寄せも可能である。
大きいしじみを選べば、しじみ汁はもちろん、身を外して酢の物や炊き込みご飯にしても美味しそうだ。

冷凍しておくと、しじみの細胞が壊れ旨味が出やすくなる。冷凍の方がオルニチンの量が増えるという研究結果もあり、1回量が多い場合は、冷凍庫保存するのも良いだろう。
教えてもらってからは、私の夏の食材の一つに「土用しじみ」が追加されている。

今年は何を食べようか。例のうなぎ屋には、あの夏の後すぐに引っ越してしまい、行けていない。そろそろ買いに行かなければ……
とても暑いこの夏。乗り切るためには、しじみもうなぎも捨てがたい土用の丑の日となりそうだ。

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庄本彩美

料理家・「円卓」主宰
山口県出身、京都府在住。好きな季節は初夏。自分が生まれた季節なので。看護師の経験を経て、料理への関心を深める。京都で「料理から季節を感じて暮らす」をコンセプトに、お弁当作成やケータリング、味噌作りなど手しごとの会を行う。野菜の力を引き出すような料理を心がけています。

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