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入梅にゅうばい

暦とならわし 2025.06.11

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暦の入梅

青い梅の実が大きくふくらんで黄ばみ始める頃、日本は長い雨期に入ります。

日本独自の雑節である「入梅(にゅうばい)」は立春から数えて127日目、太陽が黄経80度に達する日で、毎年6月11日頃です。モンスーンアジアの東端に位置する日本はここから一ヶ月以上の長い雨期、梅雨(つゆ)に入ります。

「入梅」は田植えの日取りを決めるのに重要な目安とされていました。二十四節気の芒種(6月5日)を迎えた約7日後で、ちょうど田植えが終わった頃。

暦日としての「入梅」は渋川春海が作った貞享暦(1685)から記載されるようになりましたが、当時の「入梅」の定義は「芒種の後の最初の壬の日」でした。壬(みずのえ)は陰陽五行で大きな水の動きを意味する「水の兄」。まさに水を尊び、水を招くかのような設定でした。

この計算では年によって6月4日〜16日までの変動がありましたが、平均すると6月10日で現在とほぼ変わりません。そして天保暦(1844)からは現在と同じ黄経80度で計算されるようになりました。

気象庁の梅雨入り

暦の「入梅」は太陽の黄経から計算されたもので、毎年ほぼ同じであることで田植えの日を決める目安とされてきましたが、南北に長い日本の梅雨は地域によって一ヶ月以上異なります。各地方の「梅雨入り」は毎年、気象庁が天候を読みながら発表しているため、明確な定義はなく、年によって大きく変わります。

たとえば関東の梅雨入りは平年で6月7日、梅雨明けは7月19日。沖縄の梅雨入りは5月10日、梅雨明けは6月21日です。北海道では本州ほどはっきりした梅雨がないため、気象庁でも対象外になっています。予測がはずれることもあり、梅雨入り、梅雨明けともに後日、大幅に修正されることもあります。

五月雨は聖なる水垂れ

和暦の皐月の別名は五月雨月(さみだれづき)です。曇りの日が多くなるので授雲月(じゅうんづき)、月が見えない夜も多いことから月不見月(つきみずづき)ともいいます。五月晴れは梅雨どきの滅多にない晴れの日をさす言葉です。

そのため日本の雨期は江戸時代、ただ五月雨と呼ばれていたようです。「さみだれ」は「聖なる水垂れ」を意味するやまと言葉で、五月雨の漢字は当て字です。

ちょうど田植えが終わった後に降り出す五月雨が田んぼの苗を順当に育ててくれます。梅雨の雨はまさに「聖なる水垂れ」。水が少ない地域ではこの時期の雨を溜めておく必要があることから「水取雨(みずとりあめ)」ともいい、潤沢に降る雨は農家さんにとってほっと安堵するような恵みの雨です。

栗花落(ついり)

梅雨入りの明確な目安になるのは栗の花です。栗の花は鼻をくすぐるような独特の匂いがあります。この季節のミツバチにとっても重要な蜜源で、栗の花の蜜は濃厚な茶色の蜜で甘みも強く、栄養価も高いことで知られています。

このクリーム色の細長い栗の花が咲き出したら梅雨が近く、ぽとぽとと落ち始める頃には必ず長雨が降り出します。栗の花は大量に地面に落ちて雨に濡れ、ミミズのように茶色に変色して、趣のある風景を作ります。

「栗花落」や「堕栗花」は「梅雨」よりも古くから伝わる古語で、「ついり」または「つゆり」と読みます。昔は、この言葉で梅雨を表現したといわれています。

そのため「入梅」や「五月七日」も「ついり」と読むことがあります。五月七日(西暦6月上旬)は雨乞い祭りの日とされ、栗花落とも関係があります。それはこんな伝説です。

奈良時代、神戸の田舎の役人、左衛門の元へ嫁いだ白滝姫が梅雨どきなのに雨が降らず、空梅雨(からつゆ)で困っている村を通った際、大地を杖でつつくと泉が涌き出でたとされる場所があり、そこは栗落花(つゆ)の森と名づけられています。

白滝姫は幼い子を残して早死にしてしまいましたが、毎年、梅雨の時期になると井戸の水が豊かに湧き、その水面には栗の花が落ちることから、左衛門は白滝姫を手厚く葬り、栗花落姓を名乗るようになったといわれています。『鬼滅の刃』に登場する人物の名前として話題になりましたが、現在も「栗花落」と書いて「つゆ」または「つゆり」と読む末裔の方々がおられます。

梅雨茸、苔の花

日本は一年中しっとりとしている湿潤な気候で、苔が美しい国です。苔には乾燥時の20倍の保水力があり、梅雨茸(つゆだけ)や幼樹を育むゆりかごの役割を果たしています。

梅雨の季節、元気よく育つ苔はマッチ棒のような小さな胞子体を伸ばすので、これを花に見立てて「苔の花」という季語もあります。暗い大地を明るく輝かせる日本ならではの翠緑(すいりょく)を楽しみましょう。

四季にある梅雨

日本の降水量は世界平均の2倍に相当します。その多くは梅雨と台風に集中していますが、日本は一年中、雨が降る国で、それぞれの季節に長雨があります。

春の長雨は菜種梅雨(なたねづゆ)、夏は梅雨(つゆ)、秋は薄梅雨(すすきづゆ)または秋黴雨(あきついり)、冬は山茶花梅雨(さざんかづゆ)です。

露を楽しむ

和暦の皐月は水の恵みに触れる月。そして今年の「入梅」はちょうど皐月の満月と重なっています。皐月の皐(こう)という文字は、沢、沼、水辺などをさす言葉で、白い光を放つという意味もあります。

「山滴る」という季語もあるように清らかに伝い落ちて滴るしずく、雨に濡れてさまざまな葉に宿る白い露、蜘蛛の糸に連なる真珠のような玉。菖蒲や紫陽花も水に濡れると一層、輝いてみえます。

梅雨(ばいう)という言葉は中国からきた言葉で、カビが生えやすい「黴雨(ばいう)から転じたともいわれていますが、「梅雨」を「つゆ」と読むのは日本独自のもので、梅の実が潰れる「潰(つい)ゆ」からきているとも、木の葉にたくさんつく「露」からきているともいわれています。

うっとうしいと思われがちな梅雨ですが、植物たちはシャワーを浴びて、いきいきとしています。光る水の玉、濡れて輝く世界の美しさを存分に楽しみましょう。

文責・高月美樹

写真提供:高月美樹

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高月美樹

和暦研究家・LUNAWORKS代表 
東京・荻窪在住。和暦手帳『和暦日々是好日』の制作・発行人。好きな季節は清明と白露。『にっぽんの七十二候』『癒しの七十ニャ候』『まいにち暦生活』『にっぽんのいろ図鑑』婦人画報『和ダイアリー』監修。趣味は群馬県川場村での田んぼ生活、植物と虫の生態系、ミツバチ研究など。

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