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バレンタインデー

暦とならわし 2026.02.14

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2月14日は聖バレンタインの日です。カトリックにおける聖人の日は殉教記念日が多いのですが、聖バレンタインの日もそのひとつです。
かれはローマ近郊の町の司教でしたが、ローマ皇帝が兵士の結婚を禁じたことに反対し結婚式をとりおこなったかどで斬首され(269年頃)、7世紀には「愛の守護聖人」として広く崇拝されるようになりました。そして14世紀頃からこの日に恋人同士がプレゼントをする風習が生まれました。

しかし、古代ローマでは2月14日はジュノー祭にあたりますので、愛や結婚の守護神であったジュノーの日と習合したとする説もあります。いずれにしろ、カトリックやプロテスタントなどのキリスト教圏では2月14日は愛の贈り物をする日として定着していきました。
欧米では19世紀にバレンタイン・カードが郵送されるようになり、カードを添えてさまざまな贈答品も交換されるようになりました。イギリスのチョコレート会社、キャドバリー社も1868年にハート形のチョコレートボックスを発売しましたが、贈り物の主流がチョコレートだったわけではありません。

日本におけるバレンタインデーのはじまりは、神戸のモロゾフが1936年に英字新聞に広告を出した時とする説もあれば、メリー・チョコレートが1958年にキャンペーンをはじめた時とする説もあります。しかし、いずれも成功とは言えませんでした。國學院大學の石井研士氏が丹念に戦後の新聞広告を調べたところ、1956年の広告にいくつかバレンタインの文字を見つけました。そこでは、デパートを中心に香水やネクタイ、ナイトガウンや化粧品セットなど多様な商品が贈り物にすすめられていました。
チョコレート業界では唯一森永だけが、チョコレートを添えてカードや手紙を贈ることを推奨していました。
しかし、宣伝の効果はみられず、1968年を境に客足は遠のき、売り上げも減少したのです。

ところが、チョコレートに特化したバレンタインデーが1970年代に盛況を迎えることになります。同時に、女性から男性にプレゼントを贈る習慣がハイティーンからOLに広がり、80年代前半には「義理チョコ」が登場するようになりました。時代背景としては見合い結婚から恋愛結婚への大転換がおこっていました。
バレンタインの日は女性中心の行事に変貌し、チョコレートが主役に躍り出たのです。石井氏による学生を対象とする当時のアンケート調査では、女性の実施率が62.7%、対して男性のそれは3.4%にすぎず、職業をもつ20代の女性を対象とした1990年の調査では、「義理チョコ」を含め「知人・友人」が7割近くに達していました。

1980年代、チョコレートと義理チョコに代表される女性中心の贈答文化が日本列島を席巻しました。
バレンタインデーは表面的にはキリスト教的な風習ですが、教会行事とは無縁の、きわめて世俗的なブームとして発生しました。それに加担したのはデパート業界やチョコレート業界は言うまでもなく、雑誌やテレビなどのマスコミや消費者自身でもあったのです。
さらに輪をかけたのはホワイトデーの出現でした。
チョコレートのお返しとしてマシュマロなどを男性から女性に贈る新しい習慣です。それは1977年に福岡市の石村萬盛堂が考えついた「マシュマロデー」に端を発し、日にちは1ヵ月後の3月14日となり、「ホワイトデー」と名づけられました。伝統的な贈・答の文化が現代によみがえったのです。

しかも、ホワイトデーは中国や韓国にも波及しました。
中国では白色情人節として西方情人節、七夕情人節とともに恋人同士がお互いに祝い合う日に加えられました。情人とは恋人のことです。韓国のほうは、日本と同様、男性が返礼する日となっています。
ちなみに、義理チョコ文化も韓国では受け入れられました。このようにホワイトデーは東アジアに特有の新しい行事として定着しましたが、それ以外の地域にはほとんど広がっていません。

聖バレンタインが東アジアの現状を見たら、頭が真っ白になるかもしれません。

【参考文献】
石井研士 1994 『都市の年中行事―変容する日本人の心性』春秋社、138-162頁。

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中牧弘允

文化人類学者・日本カレンダー暦文化振興協会理事長
長野県出身、大阪府在住。北信濃の雪国育ちですが、熱帯アマゾンも経験し、いまは寒からず、暑からずの季節が好きと言えば好きです。宗教人類学、経営人類学、ブラジル研究、カレンダー研究などに従事し、現在は吹田市立博物館の特別館長をしています。著書に『カレンダーから世界を見る』(白水社)、『世界をよみとく「暦」の不思議』(イースト・プレス)、『こよみの学校』全5巻(つくばね舎)、編書に『世界の暦文化事典』(丸善出版)など多数。

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