染織家の吉岡更紗です。朱色、紅、古代紫、葡萄色、藍色、萌黄色…日本では様々な美しい色の名前がつけられてきました。今回は、「鶯色(うぐいすいろ)」についてご紹介致します。

鶯色とは、その名の通り鶯の羽のような色合いです。早春に、春を告げる鳥として、別名「春告鳥(はるつげどり)」とも言われる鶯は、
「うぐひすの 待ちかてにせし梅が花 散らずありこそ思ふ子がため」
=うぐいすが待ち焦がれていた梅の花よ、散らないでほしい。愛する人のために。
「うぐひすの 音聞くなへに梅の花 我家の園に咲きて散る見ゆ」
=うぐいすの鳴く声を聞くたびに、我が家の庭の梅の花が咲いて散って行くのが見える。など、『万葉集』には、早春の花の象徴とされる梅に、鶯を組み合わせた詩が多く読まれています。なお前回の「紅梅色」でも触れましたが、『万葉集』が編纂された頃はまだ紅梅が招来されておらず、ここで詠われている「梅」は白梅です。
日本では意匠として「梅に鶯」という組み合わせが良いと考えられていますが、実際には鶯は昆虫を好むためあまり梅の木には訪れず、実際に梅の花にやってくるのは、その蜜を吸うことを好むメジロなのだそうです。

染司よしおかでは、毎年京都の西南にある石清水八幡宮で9月15日に執り行われる勅祭・石清水祭で神饌してお供えされる供花を、染和紙で作るお仕事を毎年承っています。祭礼の中で、三座の御神霊に春夏秋冬に咲く造花を計12台お供えする儀式があるのですが、その1つに梅の花があります。祭礼には生きとし生けるものに感謝をする意味合いも含まれているので、台の中には造花だけではなく、動物や虫も造作して作ります。

今までは、梅には鶯と信じていたので、やや渋めの羽色に彩色していたのですが、どうやらメジロらしい…ということになり、昨年からやや淡めの軽やかな羽色へと変化させることになりました。

少しお話が逸れましたが、メジロの羽色は華やかな萌黄色、鶯の羽色はややくすんだ茶色と言ってもいい位の渋い色合いです。鶯は古来親しまれた鳥ですが、いつ頃からその羽色を「鶯色」と称するようになったのか定かではありません。
色見本は、楊梅(やまもも)の木の皮を使い渋い黄色に染めた後、藍染を施して表しています。黄色を染めるのには刈安の葉や梔子の実、槐(えんじゅ)の蕾などを染料として使いますが、この鶯色にするには一番渋みのある楊梅(やまもも)を選びました。
江戸時代になると厳しい贅沢禁止令が施行され、庶民においては茶色、鼠色が流行しますが、その中に鶯色をさらに渋くした褐色の「鶯茶」が生まれ、とくに女性の小袖の地色として好まれました。

吉岡更紗
染織家・染司よしおか6代目
京都市生まれ、京都市在住。紫根、紅花、藍などすべて自然界に存在する染料で古法に倣い染織を行う「染司よしおか」の6代目。東大寺二月堂修二会や薬師寺花会式など古社寺の行事に染和紙を納める仕事もしているため、冬から春にかけてが一番好きな季節。美しい日本の色を生み出すために、日々研鑽を積む。
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