朴葉(ほおば)を摘んで朴葉ずしを
青葉したたる初夏の候、今は本当に美しい季節です。気がつけば、ついこの間ようやく芽吹き始めたと思っていたまわりの木々も、今は緑の葉を艶やかに広げています。
万物長じて草木が茂り、天地に満ちるという小満です。
我が家の裏庭に生えている朴の木(ほおのき)の葉も、だいぶ大きくなってきました。そろそろ毎年恒例の「朴葉ずし」を作る頃です。毎日木のそばへ行っては、葉っぱの成長具合を観察して、「今日か明日か」と朴葉採取のタイミングをはかっています。
朴葉ずしを初めて知ったのは、もう三十年以上も前のこと。岐阜に住んでいる知人が作って送ってくれたのでした。たっぷりと大きな若葉に挟まれたおすしには、刻んだ茎みょうがと甘酢のしょうが、それに鮮やかな色のマスがのっていました。そのおいしかったこと。若い朴葉の香りも一緒に味わえる豊かさに、感激したことをよく覚えています。
それから毎年送っていただいていましたが、知人がお年を召したこともあり、ここ数年は山へ朴葉を採りに行くのが大変になって、朴葉ずしを作るのはやめてしまいました。こうなれば自分で作るしかない。あんなに大好きな朴葉ずし、今まで散々いただいてきて、大体の作り方はわかっているつもり。さいわい裏庭には勝手に生えてきた朴の木がある。
というわけで、裏庭の朴の木は、朴葉ずしを作るために葉っぱを採りやすいよう、毎年剪定をして背を低くたもっています。なにしろ大木になる木なので、放っておくとぐんぐん上へ伸びてしまって、葉っぱに手が届かなくなるおそれがありますので。
そろそろかな、と思う頃には、スライスのスモークサーモンを冷凍庫に用意してスタンバイ。出回り始めた新しょうがとみょうがも準備万端。本日決行、という朝にはスモークサーモンを解凍して、しょうがを甘酢漬けにして、朴葉を採りに出陣です。
採ってきた葉をきれいに洗っている間にごはんを炊いて、炊き上がったら酢めしにします。ひと口大に丸めた酢めしと用意した具を、お酢で拭いた朴葉の上に乗せて挟んだら、すし桶にまとめて入れてしばらく重しを。重しをしている間に、使った道具を片付けて、台所がさっぱりしたころには、おすしも落ちついていい感じに。
年に一度は、若葉の季節の味わいを。
朴葉でなくても、若い柿の葉や笹の葉を使っても、おいしくできること間違いなしです。
平野恵理子
イラストレーター、エッセイスト
1961年静岡県生まれ。著書に『五十八歳、山の家で猫と暮らす』『歳時記おしながき』『こんな、季節の味ばなし』ほか多数。好きな季節は、季節の変わり目。現在は八ヶ岳南麓在住。
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