清明 4月4日~18日 三月節〈万物発して清浄明潔なれば、此芽は何の草としれる也『暦便覧』〉
さあ種蒔きだ、園芸の季節到来
清明の節を迎えて、春の陽気も真っ盛りです。清明とは、清浄明潔を略したもの。「万物ここに至って皆潔斎なり」。春になって、草木をはじめとした万物が目を覚まし、命の芽を吹き出しているときということです。
たしかにまわりに目を向けると、草木が冬の眠りから目覚めて柔らかな新しい芽を出し、花を咲かせています。何もかもがいきいきと輝きを取り戻す季節。遠くに近くに、鳥の声も賑やかに聞こえています。
そんな命が再生するこの季節、いよいよ園芸シーズンも到来です。寒くて気温が上がらない間はなかなか園芸にも熱が入りませんでした。冬枯れの庭に出るのも億劫で、庭はほぼほったらかし状態。ようやく春になり、気持ちのいい陽気に誘われようにお休みの日に張り切って庭仕事を始めます。
まずは、庭の隅や縁の下にひっ転がしてあった鉢を集めて整理します。一年草が枯れたままになっている鉢や、土をあけて洗っていない鉢もあります。買っただけで使わなかった鉢も幾つか。それらをまとめて、まずはブラシで洗ってきれいにしましょう。洗って並べながら、この鉢にはなんの種を蒔こうか、仕入れてきたどの苗を植え込もうか、考えます。
春の陽を浴びながらこんなことをしているのは至福の時間。「春昼」という季語がありますが、そののんびり長閑なトロリとした言葉にぴったりなひとときです。陽が傾けば、「春の夕」「春の暮れ」「春の宵」の言葉も思い出され、どれもまたうらうらと寛いだ空気が想起されます。
木々の花も次々に咲いて、やはり春はのんびりゆったりした時間を感じます。日脚もますます伸びるので、早い日暮れに気持が急くこともありません。「日永」「暮れ遅し」「春日遅々」、春の日が長く、暮れるのが遅いことをいう季語にもまた味わいがあります。
さて、植木鉢の手入れが終わったら、今度は鉢土づくり。鉢土を混ぜる作業は、子供のころの泥んこ遊びに通じるものがあります。大ぶりのたらいに腐葉土や赤玉土、バーミキュライトなどを入れて、あとはシャベルでグルグルかき混ぜます。たまに手でかき混ぜることも。これぞまさに泥んこ遊び。少しひんやりした土の手触りが気持ちいい。まるで自分まで自然に帰っていく感覚。鉢土づくりだけではなく、「庭仕事」などといいながら、楽しみでする園芸はどの作業も遊んでいるのと同じです。
鉢土を鉢に入れたら、先ほど即席に立てたプランにしたがって種蒔き開始。この花の種はこの古い鉢に、こっちのハーブはあの大きな鉢に、と順番に種蒔き作業が進みます。そんなことをしていると、時間を忘れていつの間にか「春夕」「春薄暮」に。切りのいいところで終わらせて、道具を片付けて部屋に入りますか。
また次のお休みには張り切って作業の続きを。春とはいえ、あんまりのんびりしていたら季節がどんどん進んでしまいますから。
平野恵理子
イラストレーター、エッセイスト
1961年静岡県生まれ。著書に『五十八歳、山の家で猫と暮らす』『歳時記おしながき』『こんな、季節の味ばなし』ほか多数。好きな季節は、季節の変わり目。現在は八ヶ岳南麓在住。
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