漬物男子、田中友規です。
今日は旅する里芋のお話です。
毎年秋になると、東京の端っこで農業をやっている両親から大量の里芋が届きます。
届いた里芋で必ず作るのが「衣かづき」。
里芋の1/4程度のところに包丁でくるりと丸く切れ目を入れ、里芋を皮ごと加熱するだけの簡単な料理で、葡萄のように指でつるっと押し出していただきます。
平安時代、身分の高い女性が顔を隠すために身に付けていた衣装「衣被(きぬかづき)」になぞらえて、黒皮からのぞく白肌の里芋に、その名がついたといいます。
本来であれば、味付けは柚味噌などで上品に、と言いたいところですが、電子レンジでチンして、パッと粗塩を振りかぶりつく。
手抜きながら、獲れたてですからこれが一番。
我が家で秋を感じる大切な味なのです。

もう一つ、秋の訪れの味で欠かせないのが「ずいき」のおつゆ。
ぼくが京都に住むようになって初めて妻の実家でいただいてから、すっかり虜になってしまった料理です。
ずいきとは、里芋の一種である八頭(やつがしら)の葉柄、つまり葉っぱと茎の間にあたる部分が長くまっすぐ伸びた、スポンジ状の繊維部分で、一見どう食べたらいいのかわからない不思議な野菜です。

ずいきは皮を包丁で剥ぎ取り、酢を加えた湯で柔らかくなるまで茹でます。水で冷やし、キッチンペーパーで水分をとったら一口大に切り、葛でとろみをつけたお出汁と合わせ、擦り下ろした生姜をたっぷりのせていただきます。
仕上がりは紫色というか灰色で・・・くたっとして・・・
見た目は食欲をそそるとは言い難いのですが、柔らかな繊維質の口当たり、出汁と生姜の相性が抜群で、なんとも癖になるのです。
深く京都に入り込まないと味わえないおばんざいのひとつだと思います。

ずいきは里芋が取れる地方で広く食べられている食材なのですが、場所が変われば呼び名も変わります。
以前、漬物研究のために珍しい野菜を求めて高知の農家を訪れた時、「りゅうきゅうは知ってるか?」と出てきたのが巨大な緑のずいき。
最盛期にはなんと2m近くにもなるそうで、地元の人たちはお味噌汁、酢の物、寿司のネタにして食べるそうですが、なぜ「りゅうきゅう」と呼ばれているのか詳しくは知らないといいます。
沖縄にずいきの料理があっただろうか・・・?

つい食文化のルーツのことになると夢中になってしまい、古い琉球料理の書物を引っ張り出して調べていたら、以前、「琉球料理 山本彩香」という店でいただいたドゥルワカシーという料理のことを思い出しました。
ターンム(田芋)を蒸して裏ごしし、かまぼこや三枚肉、豚の出汁と合わせた料理で泥を沸かすような作り方から、泥沸かし=ドゥルワカシーと呼ばれるようになったそう。繊維が多いので手間がかかり、家庭ではほとんど作らなくなってしまったと、カウンター越しに教えてくれました。
その食材の中に確かに繊維質のタームヂ(ずいき)が入っていたことを口の中の記憶も同時に蘇ってきたのです。
また伝統琉球料理の研究家である新島正子先生の本に紹介されていた「ムヂ汁」というもうひとつのずいき料理。
ずいき、豚肉、木綿豆腐を、鰹の出汁と豚の出汁、味噌で仕上げた汁物です。
芋は子孫繁栄を意味しており、お祝い料理には欠かせない食材。ドゥルワカシーもムヂ汁も、出産のお祝いの場では必ず登場していたと書かれています。

里芋は、親と子の芋が一緒に大きくなることで、子育ての例えとしてもよく引用されます。
その子孫繁栄の言い伝えの起源が沖縄にあり、高知では琉球がそのまま野菜の名前となり、京都では出汁の使い方に影響を与えていたことがわかります。
沖縄は中国からの食文化の玄関口。
様々な足跡を残して、旅をしながら現代の食卓に伝えてくれました。
そんなことを考えていると、ぼくも父母の作った里芋で、家族のために、ドゥルワカシーを作ってみたくなりました。
ターンムのような独特の香りはありませんが、里芋でも悪くありません。
家族で食べる里芋料理は、家族が健康で一緒にいられる喜びを分かち合う特別な料理なんですから。
里芋のドゥルワカシー
- 蒸した里芋 300g
- ずいき 200g
- 豚バラ肉 100g
- 豚の煮汁 300cc
- 干し椎茸 2個
- かまぼこ 40g
- サラダ油 大さじ2
- 塩 適宜
下茹でした豚のスープを300cc加え、煮立ったら蒸した里芋を加える。
木べらで潰しながら練り、切った椎茸、かまぼこを加える。
塩で味を整えながら、きんとん状に仕上げる。


田中友規
料理家・漬物男子
東京都出身、京都府在住。真夏のシンガポールをこよなく愛する料理研究家でありデザイナー。保存食に魅了され、漬物専用ポットPicklestoneを自ら開発してしまった「漬物男子」で世界中のお漬物を食べ歩きながら、日々料理とのペアリングを研究中。
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