こんにちは、俳人の森乃おとです。
今回ご紹介する花は、梅雨明け前後に大きな花を咲かせ、夏の到来を告げるヤマユリ(山百合)です。
ユリはユリ科ユリ属の多年草の総称。日本はユリの種類が多いことで知られています。固有種のヤマユリ、ササユリ、テッポウユリなどのほか、古代に大陸から渡来したオニユリなど、自生するユリは15種を超えます。
ユリはいずれも野草の花としては大ぶりで、気品ある姿をしています。中でもヤマユリは花の径が15~20㎝と大きく、強い芳香を放つことから「ユリの王様」と呼ばれます。
幕末、プラントハンターの英国人によってヨーロッパに紹介されると大人気になり、品種改良が盛んに行われました。「ユリの女王」と呼ばれる純白で大輪の〝カサブランカ〟は、ヤマユリから生まれた園芸品種です。
ヤマユリは、近畿以東の本州の、低山の半日陰の斜面に生育。江戸時代以降、参勤交代の大名などによって各地に移植され、現在では北海道から九州まで全国に自生しています。
生長にはとても時間がかかり、種が発芽するまでに2年、最初の花をつけるまでに5年。それから毎年1個ずつ花を増やしていきます。
ヤマユリの花被(かひ)は6枚ですが、外側の3枚は蕚(がく)が変形したもの、内側の3枚が本来の花弁です。ユリやチューリップのように、蕚が花弁と同じ形状になっている場合、植物学では両者を合わせて「花被」と呼びます。
ヤマユリの花被の中央には、縦に黄色い筋があり、また、赤い斑点がたくさん見られます。これは花粉を媒介してくれるアゲハチョウを甘い蜜に誘導するための「蜜標(みつひょう)」。
学名のLilium auratumリリウム・アウラツムは「黄金色のユリ」という意味で、この黄色い筋が由来。英語名のgold- banded lilyも同様です。
またヤマユリの強い芳香は、夜には夜行性のスズメガの仲間を引き寄せ、受粉を確実にするための仕掛けなのです。
俳人の飯田龍太に〝偽りのなき香を放ち山の百合〟という句がありますが、それほどまでに、ヤマユリの香りは鮮烈です。
大舎人部千文 万葉集 巻二十
ヤマユリは古代、大和朝廷の支配地域である近畿ではあまり知られていませんでした。そのため、万葉集に詠まれた「百合」は、花色がピンクのササユリだとされています。
しかし、常陸国(現在の茨城県)から防人に徴集された大舎人部千文(おおとねりべのちふみ)の「百合」は、ヤマユリだと考えるのが自然だと思います。
「百合」を「ゆる」と東国訛りで詠ったこの歌の意味は
なんとも切なく官能的な恋の歌です。
ヤマユリの花言葉は、「荘厳・威厳」「人生の楽しみ」「純潔・無垢」「甘美」など。
そして美しい女性を形容するのに、次のような言葉がよく知られています。
いずれも観賞用として、華やかで麗しき花ばかりですが、「根の部分が生薬となる」という実用的な共通点があります。
ユリの仲間は、地中の葉に養分を蓄えた鱗茎(りんけい)を持ちます。中国語ではこれを「百合(びゃくごう)」。同名の生薬は、ヤマユリやオニユリ、カノコユリの鱗茎を乾燥させたものです。食用ともなり「ユリ根」と言われ、3種のユリは別名リョウリユリ(料理百合)とも呼ばれます。
ヤマユリ 山百合
学名Lilium auratum
英語名gold⋍banded lily
ユリ科ユリ属の多年草。地下の鱗茎から春に1本の茎を伸ばし、先端に1~数個の花をつける。草丈は1m~1m50㎝。花期は7~8月。
森乃おと
俳人
広島県福山市出身。野にある草花や歳時記をこよなく愛好する。好きな季節は、緑が育まれる青い梅雨。そして豊かに結実する秋。著書に『草の辞典』『七十二候のゆうるり歳時記手帖』。『絶滅生物図誌』では文章を担当。2020年3月に『たんぽぽの秘密』を刊行。(すべて雷鳥社刊)
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