こんにちは、料理人の庄本彩美です。今日は和食の定番とも言える「肉じゃが」のお話です。

あなたにとっての「おふくろの味」は何ですか?
「一般的に」おふくろの味といえば「肉じゃが」が代表的だが、「自分にとっての」となると、別の料理を思い浮かべる人が多いのではないだろうか。
実際私も、母が作る料理でまず思い浮かべるのは「和風サーモンマリネ」だ。刺身用のサーモンとスライスした玉ねぎを、醤油、酢、砂糖で和えたもの。実家に帰る時には、母が必ず作ってくれる一品である。
「おふくろの味」が唐揚げやハンバーグだという人もいる。特に現在は世代によっても様々な答えが返ってくるそうだ。

私にとって肉じゃがは、特別大好きな料理でもない。しかし、思い起こせば、初めての一人暮らしの生活を支えてくれた料理でもあった。
実家を出てマンションを借り、自分の台所を持てたことが嬉しかった私は一時、ペペロンチーノやタイカレーなどを作ることにハマった。田舎では見たことない食材や調味料も多く、様々な料理に挑戦した。
しかし、実家で和食を食べることが多かったからだろうか、最終的には素朴な煮物が恋しくなってしまう。肉じゃがを食べると、新しいものばかりが入っていた胃がほっとするようだった。

母から作り方を教わらなかったので、最初は肉じゃがのレシピを見ながら作っていた。分量がきっちり書いてあるのに、味見をしては「母のはもう少し甘かったかも」なんて考えながら、つい勝手に砂糖を足してしまう。
鍋からは醤油と砂糖のあまからさに、酒でピッと締まった匂いがする。横の炊飯器のご飯の香りと合わさると、それはもう、幸せな時間だ。
同時に台所の母の後ろ姿が、ふっと脳裏に浮かぶ。遠く離れた実家のことを懐かしく思い出す瞬間でもあった。今は作る頻度が減ってしまったが、親元を離れた数年間は、特に作っていたように思う。

肉じゃがが「おふくろの味」と言われる理由のひとつに、「うま味」が関係しているそうだ。
肉じゃがをはじめとした和食では、味噌や醤油、昆布だしなどの調味料が使われる。これにはアミノ酸であるグルタミン酸という成分が豊富に含まれている。これがうま味成分の一つである。うま味は料理にコクや深みを与える役割を持ち、口の中にほどよく余韻が残る。それは心に残り、ほっとしたり、ほっこりするような印象深い料理となるという。
なんと、人の母乳や羊水にもグルタミン酸が豊富に含まれているそうだ。人間がいちばん最初に感じ、いちばん守られている状態のときに出会う味であり、本能的に好む味ということになるのだろう。

また、グルタミン酸は野菜やチーズなどにも含まれる。うま味成分は他にも、肉などのイノシン酸、椎茸などのグアニル酸などがある。それぞれが重なり合って相乗効果を生むことで、うま味が増すそうだ。
うま味は西洋料理や中華料理でも古くから料理に利用されており、世界各地の料理が当てはまる。
私の思いつく「おふくろの味」も、肉じゃがではなかった。しかし、母が作ったその味は、とても好きだったし、私を静かに支えてくれていたのだと、今になると分かる。きっと毎日作るどんな料理にも「おふくろの味」は含まれているのだろう。

これから春の食材が出始める。新じゃがや新玉ねぎの季節だ。母の味を思い出しながら、肉じゃがを作ってみようと思う。

庄本彩美
料理家・「円卓」主宰
山口県出身、京都府在住。好きな季節は初夏。自分が生まれた季節なので。看護師の経験を経て、料理への関心を深める。京都で「料理から季節を感じて暮らす」をコンセプトに、お弁当作成やケータリング、味噌作りなど手しごとの会を行う。野菜の力を引き出すような料理を心がけています。
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