こんにちは。俳人の森乃おとです。
蝶が羽を連ねて飛んでいるような、気高くも華やかな姿。コチョウラン(胡蝶蘭)は、かつてはとても高価で、文字通り高嶺の花でした。1990年代後半には、同じラン科のシンビジウムを抜いて、贈答花の主役に。結婚式や文学賞の授賞式、開店祝いや当選祝いなど、さまざまな慶事を彩る、なくてはならない花になりました。
学名は「蛾のような花」
コチョウランは、ラン科コチョウラン属の常緑性多年草で、台湾、フィリピン、インドネシア、マレーシアなどの熱帯アジアが原産地です。
学名はPhalaenopsis aphrodite(ファレノプシス・アフロディテ)。属名の「ファレノプシス」はギリシャ語のPhalaina(蛾)とopsis(のような)の合成語で、「蛾のような」の意。種小名の「アフロディテ」は、ギリシャ神話の愛と美の女神の名前です。
英名は、学名と同じで「Moth orchid」(モス・オーキッド)。つまり「蛾のラン」です。
100年前にイギリスから渡来
コチョウランが注目されるようになったのは18世紀。日本に輸入されたのは、約100年前の明治時代中期です。世界的な洋ランブームをけん引していたイギリスからでした。
和名をつける際に、「蛾」を「蝶」に改めたのは、「蛾」と「蝶」についてのイメージが、日本とヨーロッパではかなり違ったためと考えられています。日本では、「蛾」は夜行性で色がくすみ、負のイメージが強くありますが、ヨーロッパではどちらも区別なく、空を飛ぶ美しい虫と考えられているそうです。
厚い葉に水と養分を蓄える
ラン科植物は、世界に700属以上15000種も存在し、今でも種の分化が進行中だといわれます。大別すると木の樹皮や岩に着く着生ランと、根で土に生える地生ランに分かれ、コチョウランは着生ランです。
ただ、着生ランの多くが、水分や養分を蓄えるため、バルブ(偽球茎・偽鱗茎)と呼ばれる太い棒状の組織を持つのに対して、コチョウランはバルブを持たず、厚手の数枚の葉が、その役割を果たしています。ちなみに、ランを指すorchidという英語は、ギリシャ語のオルキス(睾丸)が元。バルブの形が似ているからだそうです。
一年中開花する花
コチョウランの栽培には温度管理が必須です。東京・新宿御苑にわが国初の温室が作られたのは1884(明治27)年で、しばらくは一部の上流階級にしか知られない花でした。
しかし、温室の普及で温度管理が容易になり、一年中開花する花になりました。苗木を作る方法も、交配したい品種の細胞をすり混ぜるなど、飛躍的に進歩しました。かつては白色が主流でしたが、現在ではピンク、黄、赤なども加わり、花径も大輪は10~15㎝、ミディは6~9㎝、ミニは4㎝ほどと多彩になりました。
俳聖・松尾芭蕉の句は、「あたかも蝶の翅にお香をたき込んだかのように、ランの花が強く香っている」という情景を詠んだものです。ランと蝶が並んで登場しますが、江戸時代にはまだ、コチョウランは渡来していません。芳香のある東洋ランを詠ったのでしょう。
ラン科植物の花は、いずれも3枚の花弁と3枚の萼片(がくへん)からなっていて、蝶が舞う姿を思わせます。「蘭と蝶」の連想は、昔から王道なのかもしれません。
ところで、「蘭」は秋の季語ですが、コチョウランは季語にはならないとされています。日本に昔から自生する花ではないこと、一年中贈り物として出回っていて、特定の季節を象徴する花ではないからです。
花言葉は「幸福が飛んでくる」
コチョウラン全般の花言葉は「幸福が飛んでくる」。蝶には「春を告げる」「幸せを運ぶ」というイメージがあり、祝いの花としてふさわしい花言葉です。日本では奇数が縁起が良いとされているので、贈り物とする場合の仕立て方は、3本、5本、7本が基本となります。ちなみに白色のコチョウランは「清純」、ピンクは「あなたを愛しています」、黄色は「商売繁盛」など。「機敏な人」という面白い花言葉もありますが、これはコチョウランがビジネスシーンで使われることが多いため、生まれたそうです。
これまでは公的な場で使われる花というイメージが強かったコチョウランですが、最近では、ミディやミニなど可愛らしく、手頃な価格のタイプも増えてきました。クリスマスや年末年始の特別な季節に、自分や家族へのプレゼントとして室内に飾りますと、気持ちが華やぎます。
来年が良き年となり、みなさまのもとに幸福が飛んできますように。
コチョウラン(胡蝶蘭)
学名Phalaenopsis aphrodite
英名Moth orchid
ラン科コチョウラン属の常緑多年草。東南アジア原産で、日本には明治時代に渡来。花色は白を基本に、ピンク、黄など。贈答花の主役に。
森乃おと
俳人
広島県福山市出身。野にある草花や歳時記をこよなく愛好する。好きな季節は、緑が育まれる青い梅雨。そして豊かに結実する秋。著書に『草の辞典』『七十二候のゆうるり歳時記手帖』。『絶滅生物図誌』では文章を担当。2020年3月に『たんぽぽの秘密』を刊行。(すべて雷鳥社刊)
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