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稲取のげんなり寿司

旬のもの 2023.06.30

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淡い紅白のおぼろや卵焼きの黄色、具材の彩りも食欲をそそる素朴な押し寿司。今回ご紹介するのは、静岡県は伊豆半島の東側に位置する漁業が盛んな町・稲取(いなとり)に伝わる郷土の味です。可愛らしい色合いにもかかわらず、その名は「げんなり寿司」。不思議な名前を持つ、ハレの日のご馳走をたずねました。

地域の皆さんに作っていただいたげんなり寿司は、なんとひとつにお茶碗2杯分もの酢飯を使った驚きのサイズ。専用の木型に詰めて、そっと押し出すと、9センチ×7センチほどもある大きな長方形の押し寿司があらわれます。

酢飯の中には、千切りにして甘く炊いた人参を忍ばせて、上には、ほろほろと細かくほぐされた紅白のおぼろを敷き詰めていきます。おぼろに使うのは、贅沢にもキンメダイ。さすがは明治時代からキンメダイの漁がはじまったという稲取ですね。

厚く焼いた卵焼きや椎茸の甘煮、マグロの刺身ものせると、どっしりと豪勢なげんなり寿司の揃い踏みです。

早速いただくと、優しい甘みのおぼろと酢飯が口の中で混ざり合い、キンメダイの旨みが広がる、素朴ながらも洗練されたおいしさです。その大きさに圧倒されつつ、意外にもパクパクと食べられてしまうもので、ひとつ、もうひとつと、食べすすめてしまいました。

稲取では、七五三や成人式、結婚式や棟上げ式など、人生の節目のハレの日にげんなり寿司が作られてきました。おめでたい事があると、親戚や日頃からお世話になっている方々に、げんなり寿司を写真のような5個1セットで配る風習もあります。近年、結婚式を行った地元の漁師さんのお宅では、700個ものげんなり寿司を作って、親類縁者に振る舞ったそうですよ。

実際に味わってみると、「げんなり」という言葉のイメージとはかけ離れた、おいしい押し寿司でした。地元の方のお話では、ボリュームのあるお寿司なので、ひとつ食べただけでも「おなかがいっぱいになり“満腹だ”」という意味合いで「げんなり寿司」と呼ばれているそう。一般的な言葉の持つマイナスイメージはあまりないとのことでした。

そして、その大きな四角い形は、江戸時代に稲取で産出されていた「畳石」をかたどっているとも言われています。畳石とキンメダイ、新旧の名物が詰まっていると思うと、ますます愛着が湧いてきますね。

畳石

げんなり寿司は、地元の料理店でメニューに並んでいたり、市場でパック入りのものに出合えたりすることも。稲取を訪ねたら是非味わってみてください。

取材協力:稲取漁協婦人部の皆さん

写真提供:清絢

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清絢

食文化研究家
大阪府生まれ。新緑のまぶしい春から初夏、めったに降らない雪の日も好きです。季節が変わる匂いにワクワクします。著書は『日本を味わう366日の旬のもの図鑑』(淡交社)、『和食手帖』『ふるさとの食べもの』(ともに共著、思文閣出版)など。

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