こんにちは。俳人の森乃おとです。
夏も深まり、ユウガオ(夕顔)の白く清楚な花が見られる季節になりました。日没の前後の夕暮れに開き、翌朝には萎れてしまう儚い一日花なので、ユウガオと名付けられました。「黄昏草/黄昏壮(たそがれそう)」という別名もあります。
ユウガオはウリ科の食用植物
ユウガオはインド、北アフリカ原産のウリ科ユウガオ属の一年生蔓(つる)植物です。円い花の印象がよく似た蔓性植物で、開花時間が名前についた花には、アサガオ(朝顔)、ヒルガオ(昼顔)、ヨルガオ(夜顔)があります。しかし、この3種はヒルガオ科です。
アサガオという名前は、「秋の七草」が定式化された奈良時代までは、キキョウを指していたようですが、平安時代に薬用・観賞用として中国から渡来し、入れ替わりました。ヒルガオは在来の野草です。ヨルガオは花が白いので時にユウガオと混同されますが、明治時代に観賞用に北米から移入されました。
ユウガオはウリ科の野菜で、実は大きく育ち、干瓢(かんぴょう)の原料にもなります。
干瓢はマルユウガオから
ユウガオは、実が丸いマルユウガオと細長いナガユウガオに分けられます。むろん、種としては同一種として扱われます。干瓢はマルユウガオの実を細く剥き、乾燥させたもの。栃木県と滋賀県が2大産地となったのは、18世紀に行われた国替え(大名の領地替え)によって、両地域で技術交流が行われたためです。
ユウガオの花期は7~9月。花径は5~10㎝の合弁花で、先端が平たく5裂しています。葉にはハート形で大きく、蔓の長さは時には20mを超えることも。マルユウガオの実は20㎏を超え、ナガユウガオは長さ60~90㎝に達します。
植物学上はヒョウタンも同一種
また、実が2段にくびれているヒョウタン(瓢箪)も、植物学的にはユウガオと同一種とみなされ、「Lagenaria sicerariaラゲナリア・シセラニア」(「白い花が咲く壜(びん)」の意)という学名も、共通しています。
ヒョウタンは、果肉を取り去り、固い皮を乾燥させて容器として使う「容器植物」として古代世界に広がりました。インドで栽培されているうちに、苦みの少ない食用種が生まれ、ユウガオになったと考えられています。
日本へのユウガオの渡来時期は、平安時代に中国からというのが定説でした。しかし、近年、青森県の三内丸山遺跡など各地の縄文遺跡からヒョウタンの種子の化石が相次いで発見されていますので、ヒョウタンを含めた渡来時期・経路の見直しが必要になると思います。
花言葉は「はかない恋」「夜の思い出」「魅惑の人」「罪」
「夕顔」は、平安時代の紫式部が書いた『源氏物語』に登場するヒロインの名前としてよく知られています。
主人公の光源氏が、ある黄昏時に粗末な家の垣根に咲く美しい白い花を目にとめます。お供の者に花を摘ませていたところ、家より彼女の女童(めのわらわ=仕えている子ども)が出てきて、香を焚きしめた白い扇を差し出します。
その扇には、「心当てに それかとぞ見る 白露の 光添へたる 夕顔の花」という和歌がきれいな字で書かれていました。歌意は「夕顔の花に光を添えるあなた様は、もしや光源氏様ではありませんか」。
心を惹かれた光源氏は夕顔のもとに通い、ある夜二人きりになれる荒れた屋敷に誘い出しますが、彼女は生霊の祟りで、夜明け前に息絶えてしまのでした。
ユウガオの花言葉は、「はかない恋」「夜の思い出」「魅惑の人」「罪」。いずれも、薄幸のヒロインの思い出に結び付きます。
江戸時代には、絵師・久隅守景(くすみ・もりかげ)が描いた「納涼図」のように、ユウガオを這わせた棚の下で、農民の一家が半裸になって涼む光景が、画題として好まれました。それらの絵のモチーフになったのが、豊臣秀吉の妻ねねの甥で、元大名の歌人「木下長嘯子」の和歌。「ててれ」はふんどし、「ふたの物」は腰巻のことです。ユウガオの花の下で、のびやかに人生を謳歌(おうか)する喜びが伝わってきます。
ユウガオと天女伝説
ユウガオは、京都府の京丹後市に伝わる日本最古の羽衣伝説にも登場します。天女に去られた夫が、天女が残したユウガオの種を撒いたら、一夜で空に届くほど伸び、それを伝って別れた妻に会うことができました。
紫式部と同時代人の清少納言は、『枕草子』の中で、ユウガオの花の風情を激賞しながら、「実の姿がとても悔しい。どうしてあんなに大きく育ってしまったのだろう」と残念がっています。一夜にして萎んでしまう美しくもはかないユウガオですが、その大きな実は、多産と生命力の象徴でもあったのです。
ユウガオ(夕顔)
学名:Lagenaria・siceraria
英名:Bottle gourd
ウリ科ユウガオ属の蔓性一年草。インド、北アフリカ原産。開花期7~9月。白く、日没時に開き、翌朝までに萎む一日花。実は巨大に膨らみ、食用になる。
森乃おと
俳人
広島県福山市出身。野にある草花や歳時記をこよなく愛好する。好きな季節は、緑が育まれる青い梅雨。そして豊かに結実する秋。著書に『草の辞典』『七十二候のゆうるり歳時記手帖』。『絶滅生物図誌』では文章を担当。2020年3月に『たんぽぽの秘密』を刊行。(すべて雷鳥社刊)
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