おはようございます、こんにちは。編集者の藤田華子です。
夜の散歩に出かけると、静寂のなか、どこからともなく虫の声が響く季節がやってきました。木々が風に揺れるざわわという音や、小川のせせらぎ、まるで自然のオーケストラを聴いているようです。
秋に虫の声に耳を傾ける風流な遊びは、実は平安時代から続き、「虫聞き」と呼ばれていました。虫の奏でを肴に酒宴を催し、季節の移り変わりを楽しんでいたそうです。その習慣はやがて庶民にも広がり、江戸時代には虫をカゴに入れて売り歩く「虫売り」という商売が成立したほどの人気でした。
虫たちが奏でる音楽は、秋の訪れを告げる最初の報せでもあります。スズムシやコオロギの高らかな歌声を聴くと、すごく安らかな気持ちになる一方で、季節の移り変わりを惜しむ、すんとした寂しさがこみ上げてきませんか?
子どものころはそんなセンチメンタルに浸るわけでもなく、庭で耳を澄ませてスズムシを捕まえました。声が聞こえたらすぐに駆けつけ、鳴き声の主を驚かせないようにそっと近づくのがポイントです。高浜虚子も、そんな様子を詠んでいます。
(鈴虫の声を聞くために、すぐに庭に出られるよう下駄が揃えておいてある)
鳴いているのは、多くはオスです。なわばりを主張したり、メスへアピールしたりするため、2枚の羽を一生懸命にこすり合わせて美しい音色を奏でます(なかには、後ろ脚と羽を擦り合わせる虫もいます)。文字だとうまく伝わらないかもしれませんが、秋に鳴く代表的な虫と、鳴き声は以下です。
スズムシ:「リーン・リーン」
コオロギ:メスを誘っているときは「コロコロリー」。争いのときは「キリキリ」など
キリギリス:「ギィー・ギィー、ギース・チョン!」
アオマツムシ:「リー・リー」
ウマオイ:「スイッチョン」
ちなみに、スズムシやコオロギが夕方〜夜にかけて鳴くように、昆虫によって音を奏でる時間帯は異なります。散歩の時間をふだんとズラし、耳を傾けてみるのもこの時期ならではの楽しみです。
一方で、虫の声は私たちに命の循環を思い起こさせてくれる存在でもあると思います。先ほど述べたよう、虫が鳴くのは繁殖のためでもあります。交尾をし、子孫を残すことが目的です。しかしスズムシを飼っていたとき、ショッキングな出来事が…。めでたく交尾を終えたあと、メスが産卵に備えて栄養を補給するため、オスを食べてしまったのです!これはたびたび見られる現象で、まさに命をかけて脈々と種を繋いでいるんだと驚きました。そんな生命の循環を知るとなおいっそう、虫たちの鳴き声は私たちの心に感動をもたらすんだなと納得します。
せわしない毎日ですが、しみじみと耳を傾ける時間を大切にしたいものですね。素敵な秋の幕開けを。
藤田華子
ライター・編集者
那須出身、東京在住。一年を通して「◯◯日和」を満喫することに幸せを感じますが、とくに服が軽い夏は気分がいいです。ふだんは本と将棋、銭湯と生き物を愛する編集者。ベリーダンサーのときは別の名です。
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