暑かった日々も少しずつ和らぎ、ようやく秋らしさを感じる季節になってきました。
ちょうどよい気候が続くと心もおだやかになってくる。そんな時期には、少し足を伸ばして興味あるまちへ行ってみてもいいかもしれません。
ゆっくりと時間が流れる場所で、物思いにふけるとき。
この日だけはデジタルの世界からは遠のいて、目の前にあるものと対峙してみましょう。
奈良県斑鳩町にある「法隆寺」は、まさにそんなことが実現できるような場所です。
飛鳥時代の様子を現在に伝える、世界最古の木造建築。
聖徳太子によって建立された寺院として伝えられています。
法隆寺といえば、きっと誰もが思い浮かぶであろう有名な俳句がありますね。
これは正岡子規が詠んだ代表的な俳句。
法隆寺に立ち寄ったあと、茶店で一服して柿を食べると法隆寺の鐘が鳴り、その響きに秋を感じて詠んだ一句なのだそう。秋の訪れを表わす見事な俳句だなぁと思います。
私は正岡子規がどんな気持ちでこの俳句を詠んだのか知りたくて、文章を書きながら実際に法隆寺へいってみました。
ゴーン、ゴーン。
境内に入り、しばらくしたらちょうど12時の鐘が鳴りました。法隆寺では8時〜16時の間、2時間おきに時刻の数だけ鐘が撞かれているそうです。
それはちょうど、薬師三尊像などが安置されている「大講堂」にいるときでした。
控えめでおだやかな鐘の音。余韻が長く大講堂に響きわたり、仏像を眺めながら時間が止まったような感覚になりました。
さらに、「金堂」や「夢殿」では飛鳥時代を中心としたたくさんの仏像に出会ったのですが、ある仏像の前で私の足は止まってしまいました。「やさしい」という表現が、果たして適切なのかは分からないのですが、その仏像からなにかあたたかなものを感じて心が震え、動けなくなりました。
もともと法隆寺は、用明天皇が自らの病気の平癒を祈ってお寺と仏像をつくることを発願したといいます。残念ながら実現にはいたらず、その遺志を継いで推古天皇と聖徳太子が完成させましたが、その想いが1,400年以上経ったいまでも息づき、色々な人の悲しみや苦しみを受け止めてきたのだろうと思います。法隆寺を訪れて、「慈悲深さ」というものを初めて学んだような気がしました。
法隆寺の境内はとっても広く、西院・東院と二つの伽藍に分かれていました。
私は二時間ほどゆっくり見たのですが、きれいな松並木からはじまって、境内を出るころにはすっかり心が洗われたような気持ちになりました。
ゴーン、ゴーン。
そうして家に帰ったあともあの大講堂で聴いた鐘の音が身体に響き渡り、忘れられない秋の思い出となりました。
季節のめぐりや時間の流れを感じながら、自分と向き合う機会を持つこと。
ありがたいことだなぁと思いながら、正岡子規のように秋をゆっくりと味わいたいと思います。
高根恭子
うつわ屋 店主・ライター
神奈川県出身、2019年に奈良市へ移住。
好きな季節は、春。梅や桜が咲いて外を散歩するのが楽しくなることと、誕生日が3月なので、毎年春を迎えることがうれしくて待ち遠しいです。奈良県生駒市高山町で「暮らしとうつわのお店 草々」をやっています。好きなものは、うつわ集め、あんこ(特に豆大福!)です。畑で野菜を育てています。
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