こんにちは。俳人の森乃おとです。
春近しとはいえ寒さが続く季節です。その中で可憐な花を咲かせ、寂しい庭に彩りを添えてくれる植物が、ローズマリー(迷迭香)です。ローズマリーの特徴は、細長い常緑の枝葉が放つ甘く爽やかな芳香。古くから料理や香料・薬用に広く使われるほか、「神秘の力を持つハーブ」として、暮らしの中で深く愛されてきました。

「海の雫」とナポレオン・ボナパルト
ローズマリーは、シソ科アキギリ属の常緑小低木。原産は地中海沿岸で、日本には中国を経て、江戸時代の文政年間(1818~1829年)に渡来したとされます。
樹高は30~180㎝。長さ1.5~4㎝、幅1~2.5mmほどの線形の葉は、枝に対生します。晩秋から初夏にかけて開花し、花色は淡紫を基本として白やピンクなど。花径1.5~2㎝ほどの唇形で、上唇部分はさらに二つに、下唇は三つに裂けます。

学名は「Salvia Rosmarinus(サルビア・ロスマリヌス)」。属名のSalviaは、ラテン語で「薬効」「安全」を意味するsalvusに由来します。そして種小名のRosmarinus は、ラテン語のros(雫)とmarinus(海)を語源に持ち、「海の雫」を意味します。
漢字表記は中国と同一の「迷迭香」ですが、読みはマンネンロウ。「香りの絶えない」ことからマンネンコウ(万年香)と呼ばれ、それがなまったともいわれます。
生薬として使われる場合は、漢字表記に合わせて「メイテツコウ」と呼びます。中国名「迷迭香」は、“迷いをさまして頭をすっきりさせる”として名づけられました。

ローズマリーには「記憶力を高める」「頭脳を覚醒させる」薬効があります。18世紀フランスの英雄、ナポレオン・ボナパルト(ナポレオン一世)は、作戦を立てる際にローズマリーの精油を大量に使用したといわれています。
聖母マリアの花「ローズ・オブ・マリー」
ローズマリーは、キリスト教圏では「不変の愛と忠誠」のシンボルとされ、多くの言い伝えがあります。その中でも、聖母マリアにまつわるエピソードはよく知られています。
ヘロデ王の軍隊に追われ、幼いイエスを連れてエジプトへと逃れる際、聖母は白い花が咲く灌木(かんぼく=低木)に青いマントをかけ、その下で眠りました。すると白い花はマントと同じ青色に変わり、聖母とイエスは無事、追手から逃れることができました。
それからその花は、聖母マリアを象徴するバラと重ねて、「ローズ・オブ・マリー(マリアのバラ)」と呼ばれるようになったのだそうです。

「4人の泥棒の酢」と「ハンガリー王妃の水」
ところでみなさんは、「4人の泥棒の酢」をご存じでしょうか?
17世紀、南フランスでペストが大流行した際、疫病をものともせず盗みを繰り返す4人の泥棒たちがいました。彼らは逮捕されましたが、「ペストに感染しない秘密」と引き換えに、死刑を免れ釈放されたのだそうです。
その秘密とは、特製の「ハーブビネガー」。泥棒たちはセージ・タイム・ラベンダー・ローズマリーなどを漬け込んだビネガーを身体に塗ったり飲んだりして、感染を防いでいたとか。その後ペスト対策として、「4人の泥棒の酢」の名をつけられた様々なレシピのハーブビネガーが誕生したとされています。

ローズマリーは幸福な結婚を導く花であるとともに、若返りにも効果があるとされました。
その花や葉をアルコールで蒸留した「ハンガリー王妃の水」または「ハンガリアン・ウォーター」と呼ばれる化粧水にまつわる言い伝えが有名です。
14世紀頃、70歳を超えたハンガリー王妃が、ローズマリーを主成分とした若返りの化粧水を献上されました。使い続けるうちに王妃は健康と美貌を取り戻し、なんと隣国の若きポーランド王に求婚され、幸せな日々を送ったとのだとか。
ローズマリーの花言葉は「変わらぬ愛」「追憶」「私を忘れないで」など。「変わらぬ愛」「追憶」は、冬でも枯れることなく芳香を放ち続けることから。
ローズマリーは、英国の劇作家ウィリアム・シェイクスピア(1564~1616年)の悲劇『ハムレット』の中でも、効果的に使われます。
恋人である王子ハムレットに捨てられた上、父までもその手で殺され、ショックのあまり狂気に陥ったオフィーリアは、ローズマリーを差し出しながら上掲のセリフを口にします。

また、「あなたは私を甦らせる」という花言葉もあります。ローズマリーには強い抗菌・抗酸化作用と清浄効果があり、古代エジプトの王の墳墓からもその痕跡が発見されています。
愛と追憶の象徴であり、永遠の命と再生を約束してくれるローズマリー。その青く美しい花と枝葉への祈りは、やがて来る春とともにいつまでも香り続けることでしょう。

ローズマリー
学名Salvia rosmarinus
英名Rosemary
シソ科アキギリ属の常緑低木で地中海沿岸原産。葉や茎に強い芳香があり、肉料理などの香りづけに使われる。ハーブの代表的な植物。日本には江戸時代に渡来。和名はマンネンロウ(迷迭香)。

森乃おと
俳人
広島県福山市出身。野にある草花や歳時記をこよなく愛好する。好きな季節は、緑が育まれる青い梅雨。そして豊かに結実する秋。著書に『草の辞典』『七十二候のゆうるり歳時記手帖』。『絶滅生物図誌』では文章を担当。2020年3月に『たんぽぽの秘密』を刊行。(すべて雷鳥社刊)
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