二十四節気は「立春」を迎えました。
まだまだ寒い日が続くなかでも、春の足音を感じる瞬間が増えてきました。
毎年同じ時期に、同じ場所で咲く花や、
春を知らせてくれる鳥や虫の鳴き声、
少しずつ移り変わる空気の気配。
それはまるで、誰かが仕掛けたり、導いてくれたりしているかのような...。
姿かたちはないけれど、そんな見えない力のようなものを感じることがあります。
そして、その「誰か」が実在したといわれる場所が奈良県にあります。
東大寺の転害門から、西へとのびる一条大路の北側にある「佐保(さほ)」という丘陵地帯。この地にやどる女神、「佐保姫(さほひめ)」です。
佐保姫は、五行説(※)によると「春をつかさどる神」と呼ばれ、俳句の季語や和菓子の名前にも用いられています。
※五行説では春は東の方角にあたり、平城京の東に佐保があったため、そこに宿る佐保姫を春の女神と呼ぶようになったといわれています。
霞の衣を織り、柳の葉っぱを青く染める若々しい女神と語り継がれる一方で、悲劇の女神だったということもわかりました。
佐保姫は、いったいどういう人だったのでしょうか。
この文章を書きながら確かめてみたくなり、私は佐保姫伝承の地といわれる奈良市にある「狭岡(さおか)神社」を訪れてみました。
狭岡神社は佐保エリア内の、こんもりとした森のなかにある小さな神社です。
この日は早朝で人は少なく、朝の柔らかな光が参道を照らしていました。
鳥居をくぐるとすぐに「狭穂姫伝承地」があります。
看板にはこう綴られていました。
狭穂姫は、開化天皇の孫で、垂仁天皇の皇后でした。兄 沙本毘古(さほひこ)はこの佐保一帯の王でありました。不幸にも夫と兄の政争にまきこまれ亡くなりました。(古事記による)
さらに本殿の近くに貼られていた佐保姫についての補足説明を詠んでみると、佐保姫は兄に「お前は兄と夫とどちらが大切か」と聞かれて、深く考えずに「兄です」と答えたら兄に最愛の夫を殺すよう命じられた。それから政争にまきこまれ、苦しみの末に入水したということがわかりました。
あぁ、なんと悲しいことでしょうか...。
私はこの看板の前で、しばらく立ち尽くしてしまいました。
しかし、こんな話を知りながらもこの日は不思議と暗い気持ちにはなりませんでした。
この森の中はほんとうに気持ちが良くて、石碑の上ではたくさんの鳥たちが会話をするように鳴いていました。
近くには佐保姫が美しい姿をこの池にうつしたといわれる「鏡池」もありました。
階段をあがって本殿へ行くと、さらにひらけた景色になり、そこにも鳥たちがたくさんいました。木から木へとうつったり、遠くから喋りかけ合っていたり。
賑やかな雰囲気のなか、私は静かに手を合わせました。
帰り道には、椿、水仙、蝋梅の花たちにも出合いました。
蝋梅へ近づくとほのかに甘い香りが漂っていて、なんだか歓迎されているかのような気持ちになり、よろこびで満たされました。
そうして足取り軽く帰宅して、あらためて思いました。
「佐保姫は、たしかにこの場所に存在している」と。
そんな確信を密かに持ちながら、佐保姫が運んでくる春をたのしみに待ちたいと思います。
※春の女神「佐保姫」と、古事記に出てくる「狭穂姫」を同一人物としていない説もありますが、今回訪れた狭岡神社は同一人物との見解でした。
写真提供:高根恭子
高根恭子
うつわ屋 店主・ライター
神奈川県出身、2019年に奈良市へ移住。
好きな季節は、春。梅や桜が咲いて外を散歩するのが楽しくなることと、誕生日が3月なので、毎年春を迎えることがうれしくて待ち遠しいです。奈良県生駒市高山町で「暮らしとうつわのお店 草々」をやっています。好きなものは、うつわ集め、あんこ(特に豆大福!)です。畑で野菜を育てています。
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